An Artless Riverside 川虫館
【国産カゲロウ幼虫 各科への検索】
以下に国産カゲロウ幼虫の科レベルの検索図を示します。一部、顕微鏡が必要な同定キーやアングルを工夫しないと観察ができない同定キーがありますが、極力そのようなものの使用は避け、非専門家でもなるべく簡便に見分けられるような検索図の作成を心がけました。野外観察等でお役立てください。
※本検索図は国内種の同定を想定して作っています。海外種には適用できないため、その点はご留意ください。
はじめに知ってほしいこと・アドバイス
・変形や破損が少ない生きた状態、あるいは死後間もない状態での同定を推奨します。カゲロウ幼虫は触角・テールの長さやえらの形態が重要な同定キーとなってくるので、
採集時や固定後にそれらを破損させてしまうと同定に支障が出る場合があります。もちろん生きた状態がベストですが、やむを得ない場合にも、なるべく原型が残っている
サンプルで同定を行うことが望ましいです。
・十分に育ったステージ中~後半の幼虫で同定を行うことを推奨します。グループにもよりますが、終齢幼虫の2-3齢前から翅芽(成虫の翅のもとになる器官)が観察されは
じめ、翅芽が認められる幼虫はステージ後半といえます。顕微鏡下での本格的な観察が可能な場合や観察者がカゲロウ慣れしている場合にはステージ序盤の幼虫でも問題
なく同定が可能ですが、サンプルのサイズは大きいに越したことはありません。グループによっては成長に伴ってえらの数が増えたり、特定の成長段階に到達してはじめて
特徴となる器官(突起等)が現れたりもします。
・複数アングルで写真を撮っておくと吉です。川虫は体を平たくすることで流水環境へ適応しているものが多くおり、体の厚みや顔つきなども重要な同定キーとなることが
あります。慣れないうちは、可能であれば背面・側面・顔の最低3点を撮影しておくとよいでしょう。側面や顔の撮影は100均等で売っている透明なケースが便利です。
主な観察ポイント(カゲロウ幼虫の検索に頻出の同定キー)
非常に重要:テールの本数や長さ / 腹部各節から生えるえらの形状、えらの数 / 体の厚み
重要なことがある:触覚の長さ / 複眼のつき方 / 大顎の形状(顕微鏡がないと難しい)/ テールに生える細かい毛の有無、生える範囲(白バックで撮るのは避けること
が好ましい)/ 外骨格の発達の程度 / 泳ぎ方(生時のみ観察可)
国産カゲロウ幼虫 各科への検索
スタート
【細】:頑張れば肉眼でも見えるが、細部であるため観察には
顕微鏡やルーペがあると好ましい。
【顕】:観察には顕微鏡やルーペが必要。
黄色の太字:重要かつ比較的観察しやすい同定キー。
(1)・頭部前方には大顎が変形したツノ状突起が伸びる(※)
・腹部には先端が羽毛状に分岐したふわふわのえらがある
※大顎ではなく頭部が変形したタイプのツノをもつもの(トゲ
マダラカゲロウ属(マダラカゲロウ科)やミツトゲヒメシロ
カゲロウ(ヒメシロカゲロウ科)など)はここに該当しない
ため注意。
(1)のようでない
・頭部前方のツノは短め(頭部の縦幅を超えない)
・腹部の各えらは根元から羽毛状で【細】、再後端(第8節)のえらは
腹端に届かない
・3本のテールのうち中央のテールは左右のテールよりやや長い
(1.1-1.2倍)程度
・頭部前方のツノは長い(頭部の縦幅と同程度かそれ以上)
・腹部の各えらは葉状で、外周が羽毛状に分かれる【細】。えらは大きく、
腹部第8節のえらは腹端近くまで届く長さ。
・3本のテールのうち中央のテールは、左右のテールの2倍近い長さ
(2)のようでない
(2)・体は扁平で、腹部各節のえらは羽毛状
えらは左右に伸び、背面を覆わない
(北日本ではこの時点でカワカゲロウ科確定)
・触角は体長の1/3以下、テール長は体長の半分程度
・テールにはテールの太さよりも長い毛が密生する【細】
(トゲエラカゲロウ属(トビイロカゲロウ科)との区別点)
(3)前脚各節の内側にブラシ状の長い剛毛が並ぶ
(3)のようでない
・体は扁平でなく、腹部のえらはすべて側方に向かって生える【細】
・体はやや扁平で、腹部第一節のえらは腹面に位置する【細】
ヒトリガカゲロウ科(未観察)
※1980年代以降国内から記録がなく絶滅の可能性がある
(4)・小型(終齢でも10 mm以下)で扁平
・腹部第1節のえらはごく短小な棒状【顕】、第2節
のえらは 大きな長方形で、以降のえらを覆う
※一対の大きなえらが後方のえらを覆う点では
エラブタマダラカゲロウ属(マダラカゲロウ科)
と同様。ただしエラブタマダラカゲロウは全身が
毛深く、 体高がある。
(4)のようでない
・腹部のえらは第1・2節にはなく【顕】、第3節以降にある。各えらは胴体に密着するように生え、背面から見た時にえらが胴体の輪郭の
外に飛び出すことはない。
・外骨格が堅牢で、全体的にずんぐり・がっしりした体型の種がほとんど。各パーツの強度が高い。
・国内に種数が多い。種内の色彩変異も多様。頭部前方や胸部背面にツノ状突起がある種群もいる。
・体が扁平なごく一部の種を除き泳ぎが下手で、小魚のように泳いで逃げることはない
※ 種数が多いため2ページに分けた科別ページを設けています
・腹部のえらは腹部第1節または2節以降にある(場合によっては【細】or【顕】)
・外骨格は脆弱で、生時からテール・脚・えら等の各パーツがとれやすいものがほとんど
(5)・体は背腹に著しく扁平で、両方の複眼はほぼ真上を向いている
・石などの表面を滑るように動く。泳ぎは脚を平泳ぎのように前後させるもので、下手。または完全に泳げない。
・国内に種数が多い。腹部のえらは葉状のもの・ふさ状のもの・両方あるものなど様々【細】。
※ 種数が多いため2ページに分けた科別ページを設けています
(5)のようでない。体は扁平でないか、扁平でも胴体をくねらせて直線的に泳ぐことができる。
・体はまあまあ扁平
・腹部のえらは葉状でなく、先端が2~多数に分岐した
糸 or ハケ状、ないし単一の糸状【細】
・3本のテールはすべてほぼ同長(ただし非常に折れやすい)
・左右のテールはそれぞれ両側に短い毛をもつ【細】or【顕】
・小顎の先端付近に長毛が密生する【顕】
・体の厚みはさまざま
・腹部のえらは葉状
・3本のテールのうち中央のテールは、左右のテールより多少なりとも短い or ない
・左右のテールはそれぞれ内側にのみ毛をもつ【細】
・触角の長さは頭幅の2倍以上
・小型で、終齢時の体長はおおむね10 mm以下。大きな種でもせいぜい12-13 mm程度。
・テールは3本、あるいは中央が退化し2本
・上唇前縁中央が鋭くへこむ【顕】
・腹部第8・9節に側棘がない【細】
・国内に種数が多く、体型はさまざま
・必ず体高があって扁平ではなく、必ずテールは3本
・触覚の長さは頭幅の2倍以下
・上唇前 縁中央部はへこまないか、へこんでも陥入の角度は鋭角ではない【顕】
・腹部第8・9節に側棘がある(ものによっては【細】)
・大型で、終齢時の体長は15-20 mm程度
・腹部第1・2節には葉状のえらが2枚ずつあり、
第3節以降は1枚【細】
・触角の長さは頭幅と同程度
・腹部第8・9節に側棘は大きく、明瞭
・腹部各節のえらは一枚ずつ
・腹部第8・9節に側棘があるが、小さく目立たない【細】
・触角は頭幅の2倍弱程度
・大型で、終齢時の体長は20 mm以上
・小顎が長く、小顎と上唇前縁に毛が密生する【顕】
・触角は頭幅と同程度
・中型で、終齢時の体長は10-14 mm程度
・小顎はガガンボカゲロウほど長くない
日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018);川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)をもとに改変
補足資料的ですが、国産カゲロウ各科の特徴を一覧にした表を作成しました。上で同定した結果が合っているかどうかのチェックにどうぞ。