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【ヒメトビケラ科 Hydroptilidae
 

 

​意識して探さないと見落としてしまうほどの超小型のトビケラです。幼虫は終齢のみ可携巣を作り、巣材は砂や植物片・糸状藻類・水草の茎などさまざまです。図鑑的には、

  ①胸部背面は前胸~後胸までそれぞれ1対の明瞭なキチン板がある​

​  ②尾肢はごく短小で尾肢から長い剛毛が生えない

以上2点で同定されます。腹部が頭胸部に比べて大きく肥大する(※終齢)種が多いことも特徴です。きわめて小型かつ巣・幼虫本体ともに特徴のある形態であるため一度認識してしまえば容易にそれと分かりますが、探すまでのハードルが高いトビケラです。​なお、終齢(5齢)より前の1~4齢幼虫は尾肢がやや長い・腹部が細いなどの特徴があり、終齢への脱皮時に大きく形態が変化することが分かっています(若齢幼虫は未観察)。幼虫の齢期によって外観が大きく変化するトビケラは世界のトビケラの中でも例外的です。ただし1~4齢幼虫はきわめて小さいため目視が困難なだけでなく、終齢までは成長が非常に急速なことも知られており、発見は高難度です。


下位分類(国産既知種のリスト)


  カワリオオヒメトビケラ属 Allotrichia
    ・シンシロオオヒメトビケラ Allotrichia rhynchophyllum Zhou, Yang & Morse, 2016 
  ヒメトビケラ属 Hydroptila
    ・ミギヒメトビケラ Hydroptila asymmetrica Kumanski, 1990
    キュウナガヒメトビケラ Hydroptila botosaneanui Kumanski, 1990 
    ・チャイナヒメトビケラ Hydroptila chinensis Xue & Yang, 1990
    チョウセンヒメトビケラ Hydroptila coreana Kumanski, 1990
    ヌマヒメトビケラ Hydroptila dampfi Ulmer, 1929
    ムグリヒメトビケラ Hydroptila demersa Ito & Sasaki, 2023 
    セナガヒメトビケラ Hydroptila dorsoprocessuata Botosaneanu, 1993 
    ハハジマヒメトビケラ Hydroptila hahajima Ito & Sasaki, 2023 
    ・ハットリヒメトビケラ Hydroptila hattorii Ito, 2022
    ハリヒメトビケラ Hydroptila introspinata Zhou & Sun, 2009
    イシウラヒメトビケラ Hydroptila ishiura Ito & Sasaki, 2023
    カキダヒメトビケラ Hydroptila kakidaensis Nozaki & Tanida, 2007
    ナガハマヒメトビケラ Hydroptila Ito & Sasaki, 2023
    ナゴヒメトビケラ Hydroptila nago Ito, 2019
    ナンセイヒメトビケラ Hydroptila nanseiensis Ito, 2011
    オガサワラヒメトビケラ Hydroptila ogasawaraensis Ito, 2011
    オグラヒメトビケラ Hydroptila oguranis Kobayashi, 1974
    ニセオグラヒメトビケラ Hydroptila parapiculata Yang & Xue, 1994
    マツイヒメトビケラ Hydroptila phenianica Botosaneanu, 1970
    ニセタイワンヒメトビケラ Hydroptila pseudseirene Ito, 2015
    ・トゲヒメトビケラ Hydroptila spinosa Arefina & Armitage, 2003
    ラセンヒメトビケラ Hydroptila spiralis Ito, 2015
    アジアヒメトビケラ Hydroptila thuna Oláh, 1989
    トコヨヒメトビケラ Hydroptila tokoyo Ito & Sasaki, 2023
    ヤエヤマヒメトビケラHydroptila yaeyamensis Ito, 2015
  ケシヒメトビケラ属 Microptila
    ・ゲンカミクロヒメトビケラ Microptila genka Ito, 2017
    ・ナカマミクロヒメトビケラ Microptila nakama Ito, 2017
    ・ミクロヒメトビケラ Microptila orienthula Kjærandsen & Ito, 2009
  オトヒメトビケラ属 Orthotrichia    
    ・チョウセンオトヒメトビケラ Orthotrichia coreana Ito and Park, 2016
    ・コスタオトヒメトビケラ Orthotrichia costalis (Curtis, 1834)
    ・イリオモテオトヒメトビケラ Orthotrichia iriomotensis Ito, 2013
    ・クロオトヒメトビケラ Orthotrichia tragetti Mosely, 1930
  ハゴイタヒメトビケラ属 Oxyethira
    ・ハゴイタヒメトビケラ Oxyethira acuta Kobayashi, 1977
    ・カキダハゴイタヒメトビケラ Oxyethira angustella Martynov, 1933
    ・チトセハゴイタヒメトビケラOxyethira chitosea Oláh & Ito, 2013
    ・ヒロシマハゴイタヒメトビケラ Oxyethira hiroshima Oláh & Ito, 2013
    ・メクンナハゴイタヒメトビケラ Oxyethira mekunna Oláh & Ito, 2013
    ・ミエハゴイタヒメトビケラ Oxyethira miea Oláh & Ito, 2013
    ・オキナワハゴイタヒメトビケラ Oxyethira okinawa Oláh & Ito, 2013
    ・オゼハゴイタヒメトビケラ Oxyethira ozea Oláh & Ito, 2013
    ・シュマリハゴイタヒメトビケラ Oxyethira shumari Ito & Oláh, 2017
    ・ツルガハゴイタヒメトビケラ Oxyethira tsuruga Ito & Oláh, 2017
  ガンバンヒメトビケラ属 Plethus
    ・ガンバンヒメトビケラ Plethus ukalegon Malicky and Chantaramongkol, 2007
  コケヒメトビケラ属 Pseudoxyethira
    ・フナツキコケヒメトビケラ Pseudoxyethira funatsuki Ito, 2017
    ・コケヒメトビケラ Pseudoxyethira ishiharai (Utsunomiya, 1994)
    ・アジアコケヒメトビケラ Pseudoxyethira thingana (Oláh, 1989)
  カクヒメトビケラ属 Stactobia
    ・カンピレカクヒメトビケラ Stactobia campire Ito, 2017
    ・チチブカクヒメトビケラ Stactobia chichibu Ito, 2017
    ・オナガカクヒメトビケラ Stactobia distinguenda Botosaneanu & Nozaki, 1996
    ・グンマカクヒメトビケラ Stactobia gunma Ito, 2017
    ・ハットリカクヒメトビケラ Stactobia hattorii Botosaneanu & Nozaki, 1996
    ・ナガトゲカクヒメトビケラ Stactobia inexpectata Botosaneanu & Nozaki, 1996
    ・カクヒメトビケラ Stactobia japonica Iwata, 1930
    ・カナガワカクヒメトビケラ Stactobia kanagawa Ito, 2017
    ・カワカクヒメトビケラ Stactobia makartschenkoi Botosaneanu & Levanidova, 1988
    ・ニシモトカクヒメトビケラ Stactobia nishimotoi Botosaneanu & Nozaki, 1996
    ・タイワンカクヒメトビケラ Stactobia semele Malicky & Chantaramongkol, 2007
    ・ウラウチカクヒメトビケラ Stactobia urauchi Ito, 2017
    ・ヨナカクヒメトビケラ Stactobia yona Ito, 2017
  サワヒメトビケラ属 Stactobiella
    ・アイチサワヒメトビケラ Stactobiella aichi Ito, 2020
    ・アマミサワヒメトビケラ Stactobiella amami Ito, 2020
    ・キタサワヒメトビケラ Stactobiella biramosa Martynov, 1929
    ・クメジマサワヒメトビケラ Stactobiella kumejima Ito, 2020
    ・サワヒメトビケラ Stactobiella tshistjakovi (Arefina & Morse, 2002)
  オオヒメトビケラ属 Ugandatrichia
    ・ナキジンオオヒメトビケラ Ugandatrichia nakijinensis Ito 2012
    ・タイワンオオヒメトビケラ Ugandatrichia taiwanensis Hsu & Chen, 2002
   日本産トビケラのリスト (外部リンク/2024年9月閲覧)基づく)

​以上、10属67種が知られているほか未記載種も複数いると考えられます。
移動性を欠くことから地域ごとに種分化が著しい種群がおり、野外で見かける頻度は高くない割に種数が非常に多くなっています。2000年以前は北海道の種の割合が高めでしたが、近年(特に2010年以降)は南西諸島や小笠原諸島から新種が記載が相次いでおり、種名だけを羅列すると南方系のトビケラのようにも思えます。なおカメノコヒメトビケラ属は従来カメノコヒメトビケラ亜科として本科に含まれていましたが、別科として扱うこともあり、本HPでは別科として本科と分けています。
 


フォトギャラリー

終齢/雌雄不明

​2024.06.27 宮城県

終齢/雌雄不明

​2024.06.27 宮城県

蛹/雌雄不明

​2024.06.27 宮城県

―――――――――――【 ヒメトビケラ属の一種(おそらく全て同種)】―――――――――――

生息環境:平地渓流の浅瀬・平地の細流・水路・河川に面した岩盤の染み出しなど 記録済みの地域:宮城・福島 幼虫の特徴:終齢幼虫の腹部は背腹に肥大しており横から見ると太い体型が顕著。巣は糸状藻類を渦状に巻いたうえに砂粒をまぶしたサック型。巣を覆う砂粒の量は個体差(産地差)が大きい。 季節性・化性:成長は速く、春~秋まで長く終齢幼虫の巣が見つかることから1年2化以上と推測される。


観察メモ
 ・とにかく小さいため、よく目を凝らさないと見過ごしてしまいそうになるトビケラです。筆者の家の近所の川にも少なからず生息していますが、図鑑で存在を知ってか
  ら実物を認識するまで実に4年の月日を要しました。それまで幾度も近所の川で川虫採集を行っていましたが、長いこと見過ごしていたようで悔しい思いをしました。
 ・写真の種(南東北ではよく見るが種レベルでは同定できていない)は終齢幼虫は巣を礫や岩盤上に強く固着させたうえで巣の中で蛹化するため、石撫でやキック法で巣
  を採集するのは効率が良くないです。地道な石めくりやルッキングが最も有効です。
 ・種多様性の高いトビケラですが、本科は採集・同定だけでも非常に高い専門性を必要とするためこれまで1(?)種しか発見できていません。川虫・トンボに幅広くを手を
  出しているうちはなかなか難しいかもしれませんが、いつか色々な種を観察してみたいものです。
 ・2023年に小笠原諸島から複数種が発見・記載された際の論文は以下です。東洋のガラパゴスと言われる小笠原諸島は外来種の影響で多くの固有種が絶滅の危機に瀕して
  いる危機的状況下にありますが、そんな中で新たな固有種が見つかるというのは明るいニュースでした。興味のある方はぜひ参照してみてください。

   参照(外部リンク)
   Ito, et al., 2023. The family Hydroptilidae Curtis (Trichoptera) in the Ogasawara Islands, northwestern Pacific, with particular reference to
     adaptive radiation in the oceanic islands

 

上画像左端の個体

巣から頭部を出しているところ。顕微鏡下で見ると非常に愛嬌のあるトビケラですが、肉眼でこの顔つきをはっきり見ることは困難です。

​同個体、巣から引っ張り出したところ


生息環境

​生息環境例(福島県/7月)

上述の通り​さまざまな環境を利用するトビケラですが、一例として上画像の種を採集した特徴的な場所の景観を載せます。環境は両岸に岩盤が露出した小河川で、岸の岩盤のところどころに画像のような染み出し水が流れる場所があり、近付いてよく目を凝らすと右の画像のようにヒメトビケラ属の可携巣が点在していました。同じく染み出しを利用する川虫としてはオビカゲロウやノギカワゲラ・クロツツトビケラ・カクスイトビケラ科の一部などが挙げられますが、これらが自然度の高い樹林内の染み出し(飛沫帯)を利用するのに対し、このヒメトビケラは単に「水量のきわめて乏しい傾斜流水部」を無差別に利用することができるようです。平地流近傍の水温の高い飛沫帯や富栄養化して藻類が過剰繁茂した染み出しにむしろ多く、人里離れた爽やかな渓流環境ではほとんど見たことがありません。極端な例としては河川の護岸壁面の塩ビ管から安定した量の排水がしたたり落ちる場所で幼虫を見かけたこともあります。


成虫(未撮影)
 
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