An Artless Riverside 川虫館
【ケトビケラ科 Sericostomatidae】
やや小型のケーストビケラです。国産種は1属2種のみであるため同定上の問題は少ないと思いきや、他科に紛らわしいものが複数います。図鑑的には、
①前胸・中胸は広くキチン板に覆われ、後胸は膜質部が多い
②腹部第1節背面・側面にそれぞれ肉質隆起をもつ
③触角は短小で頭部前縁から生える
④後脚は前脚・中脚に比べて極端に発達したりせず、爪の変形もない
⑤前胸を横断する隆起がない(ツノツツトビケラ科との区別点)
⑥尾肢基部から生える剛毛は10本をゆうに超える(フトヒゲトビケラ科との区別点 ※)
以上6点によって同定されます。図鑑の検索表を素直にたどっていくと検索表の最深部までもつれ込むため、触角や胸部キチン板配列を見誤ると誤同定に陥りやすいです。
※ 図鑑には『30本以上』と書かれているが、模式図に30本以上が描写されているのは見たことがなく、実物を見ても30本以上はない。謎。フトヒゲトビケラ属の尾肢の
剛毛は数本程度なので10本以上が確認できれば本科としてよいように思う。第一、慣れればこの2科は巣の表面のなめらかさで見分けられるため⑥の同定キーは必ず
しも必要でない。
下位分類(国産既知種のリスト)
グマガトビケラ属 Gumaga
・グマガトビケラ Gumaga okinawaensis Tsuda, 1938
・トウヨウグマガトビケラ Gumaga orientalis (Martynov, 1935)
(日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018)、 日本産トビケラのリスト (外部リンク/2024年12月閲覧)に基づく)
以上、1属2種が知られています。国内では南西諸島のグマガトビケラG.okinawaensis がまず記載され、本土に産するトウヨウグマガトビケラはしばらくの間「グマガトビケラ似の別種(正体不明)」という認識をされていたようですが、2010年代後半に「ロシアで既に記載されているもの(G.orientalis )と同種らしい」ということが判明し、やっと「トウヨウグマガトビケラ」という和名が与えられたようです。
フォトギャラリー
終齢(?)/雌雄不明
2018.12.25 新潟県
【 トウヨウグマガトビケラ 】
↑
胸部背面(トウヨウグマガトビケラ)
中胸後部に、大きなキチン板から分離した
細い横長のキチン板があるのがポイント
です(矢印)。
尾肢周辺の剛毛(トウヨウグマガトビケラ)
近縁他科よりも剛毛が多く生えています。
白いツブツブは外部寄生している
ツリガネムシ。
※ 2018年以降採集できておらず顕微鏡写真を撮影できていません。再確認でき次第画像を差し替えます。
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城(要確認)・新潟 幼虫の特徴:(国産既知種は2種のみであり、詳細は観察メモに記載) 季節性・化性:詳細不明/1年1-2世代(地域によって異なる?)
観察メモ
・巣はゆるく湾曲した円筒形で、巣材の粒径が非常に均一で表面がなめらかな点が特徴です。巣はマルツツトビケラ属(カクスイトビケラ科)およびカクツツトビケラ属
(カクツツトビケラ科)の砂で巣を作る種群と酷似しますが、それらの巣は巣材の粒径にややばらつきがあり、巣表面の凹凸が多いようです。要は、本科の巣はより几
帳面に作られた雰囲気があります本科です(なお管理人はまだ十分に目が鍛えられていないので、幼虫本体を見ないと科レベルですら断定できません)。
・巣のみならず幼虫本体の雰囲気もマルツツトビケラ属やカクツツトビケラ属に似ているため厄介です。触角が目の直前にないことが観察できればカクツツトビケラ属の
可能性を、前・中脚より長い後脚が観察できれば(または胸部前方に肉質隆起があれば)マルツツトビケラ属の可能性をそれぞれ排除できるほか、前・中胸背面キチン
板、あるいは尾肢周辺の剛毛のどちらかを詳細に観察できれば一発でこれら2属と識別可能です。個人的には胸部キチン板を見るのが一番分かりやすくて確実だと思っ
ています。
・和名にも学名にもなっている「グマガ」は沖縄の方言で「小さい」という意味らしいです。正直、クダトビケラやヒメトビケラをなど本科よりも小さなトビケラはごろ
ごろいるのですが、「誰でも肉眼ですぐ認識できるサイズ」に対象を絞れば、確かにちょうど本科くらいが「小型種」としての標準サイズなのかな…?とも思います。
生息環境
「河川水辺の国勢調査」(国土交通省)のリストを見ると青森を除く東北全県で名前が挙がっていますが、個人的には東北ではほとんど目にしません。2024年現在、北海道からは未記録です。宮城では2023年に怪しい個体を1個体得ていますが、細部をよく見ずにウエノマルツツトビケラ(カクスイトビケラ科)と誤同定(?)してしまっており、細部が見える画像も標本も残っていないため要追認です。画像の新潟県の河川(上画像の個体を採集した川)は非常に自然度の高い、多様な川虫が生息する小河川です。東北で確実な記録を出したいところですが、このような環境は簡単には見つかりません。
トウヨウグマガトビケラ採集環境(新潟県/6月)