top of page


【クロツツトビケラ科 Uenoidae】
 

​やや小型のトビケラで、クロツツトビケラ属(クロツツトビケラ1種)とアツバエグリトビケラ属とで幼虫の雰囲気や生息環境は大きく異なります。図鑑的には、

​  ①中胸背面は広くキチン板に覆われ、後胸は大部分が膜質で小さなキチン板が散る

  ②可携巣は定形(=ふにゃふにゃでない)で腹部第1節に肉質隆起がある

  ③触角はごく短小で位置は眼と頭部前縁の中間にある

  ④中胸側板は前方に突出せず、中胸背板の中央が小さくへこむ

ことで他科と区別されます。少なくとも国内種では中胸背板中央のへこみが決定的な本科の特徴とされますが、これを固有形質として扱う分類体系にはやや問題がありそうです。クロツツトビケラに関しては巣の外観が独特なため、覚えれば野外でもすぐに見分けることができます。


下位分類(国産既知種のリスト)


  アツバエグリトビケラ属 Neophylax
    ・ニッポンアツバエグリトビケラ Neophylax japonicus Schmid, 1964
    ・コイズミエグリトビケラ Neophylax koizumii (Iwata, 1927)
    ・シロフアツバエグリトビケラ Neophylax shikoku Vineyard & Wiggins, 2005
    ・ウスリーアツバエグリトビケラ Neophylax ussuriensis (Martynov, 1914)
  クロツツトビケラ属 Uenoa
    ・クロツツトビケラ Uenoa tokunagai Iwata, 1927
  川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)に基づく)

​以上、2属5種が知られています。アツバエグリトビケラ属は従来エグリトビケラ属に含められておりどの科に帰属させるかに関してはさまざまな意見がありますが、ここではとりあえず、丸山ら(2016)に従い本科に含めています。

 


フォトギャラリー

終齢/雌雄不明

​2021.03.27 宮城県

​同個体 幼虫頭・胸部拡大

​同個体 幼虫頭・胸部下面拡大

​胸部下面には各節に1対のキチン板があります。

――――【 クロツツトビケラ 】―――――――――――――――

生息環境:源流・山地渓流やその周辺の飛沫帯 観察した地域:宮城・新潟 幼虫の特徴:巣と幼虫の頭・胸部は濃い黒褐色で、巣材は幼虫が吐き出す糸だけで作られている 季節性・化性:春~初夏に羽化/1年1化


観察メモ
 ・アツバエグリトビケラ属は中流域に多産することがあるといわれていますが、個人的に未観察です。アツバエグリトビケラ属の可携巣はコエグリトビケラ科やニンギョ
  ウトビケラ科の一部に酷似しており、日頃からいちいち注意を払って観察する対象でなかったのが要因な気がします。アツバエグリトビケラ属の存在を知って以降は一
  応気にかけるようにしていますが、まだ出会えていません。
​ ・クロツツトビケラの巣は幼虫の吐く糸だけでできており、巣材を外部調達せずに可携巣を作るトビケラは国内では唯一です(世界的にもごく少数派)。巣に力を加えて
  も折れたり割れたりの破損はせず、へこむ・曲がるなどして原型をよく留めます。
 ・蛹化時に、クロツツトビケラは飛沫帯の岩盤のくぼみなど、アツバエグリトビケラ属は河床の特定の大礫表面などに集まり集団蛹化する習性があるようです。
 ・幼虫は高水温に弱く、場合によっては生時の扱いには注意が必要です。

 

生息環境(特殊な例?)

​クロツツトビケラを採集した宮城県の山深い渓谷にある小さな滝状の環境です。クロツツトビケラは関東以西では主要な山塊の渓流域では一般的なトビケラであるようですが、北日本では記録がなく、上画像で示した宮城県の個体はやや飛び地的な北限記録になるようです(2025年現在)。観察した環境も関東以西で一般的な渓流の水中ではなく、左の岩盤でした。オビカゲロウやノギカワゲラを探すべく岩盤をよじ登っていたところ、岩盤の小さなくぼみの水が溜まった部分に上の個体がいるのを見つけたという経緯です。東北でクロツツトビケラを発見したのはまだ一度きりですが、気候等の要因で環境嗜好に変化があるのか、それともたまたま変なところにいたものを見つけただけなのか、今後要確認です。

観察した環境(宮城県/3月)


成虫(未観察)
 
bottom of page