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【ヒメフタオカゲロウ科 Ameletidae】
 

​中型のカゲロウで、細長い紡錘形の体型です。図鑑的には、

  ①ツノ状に発達した大顎が頭部前方に突出しない

  ②前脚の内側に長い剛毛が密生しない

  ③複眼が頭部の側面についている

  ④左右のテールの外側には毛が生えていない

  ⑤腹部各節のえらは各1枚ずつで、腹部第8・9節後縁の側棘はごく小さく目立たない

以上の5点を順番に観察することで同定されます。腹部のえらは筋肉を使って動かすことができないため、溶存酸素の高い流水環境でしか生存できません。なお和名の『フタオ』は成虫のテールが2本しかないことに由来しますが、幼虫のテールは3本です。


下位分類(国産既知種のリスト)


  ヒメフタオカゲロウ属 Ameletus 
    ・ナバスヒメフタオカゲロウ Ameletus aethereus (Navás ,1915)
    ・マエグロヒメフタオカゲロウ Ameletus costalis (Matsumura,1931)
    ・ヨコスジヒメフタオカゲロウ Ameletus croceus Imanishi,1932
    ・キョウトヒメフタオカゲロウ Ameletus kyotensis Imanishi,1932
    ・ヒメフタオカゲロウ(ナミヒメフタオカゲロウ) Ameletus montanus Imanishi,1930
    ・クロベヒメフタオカゲロウ Ameletus subalpinus Imanishi,1932
​    ・オオヒメフタオカゲロウ(仮称) Ameletus sp. (既知の未記載種)
  (川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)に基づく)

​国内では1属7種が記載されているほか、幼・成虫の特徴がよく認知されているオオヒメフタオカゲロウ(仮称/未記載)という既知種もいます。他にも全国各地に多くの未記載がいることが分かっており、仮に国産種がすべて判明すれば何種になるのか、予想がつきません。外部形態を用いた種同定の手法が確立できておらず混乱が続いているグループですが、管理人が特に興味を持って観察しているカゲロウのひとつです。

 


フォトギャラリー

終齢/♂(羽化直前/背面と腹面)

2023.05.21 山形県

終齢/♂(羽化直前)

2022.05.11 宮城県

終齢/♂

2022.05.13 宮城県

終齢/♂

2019.06.01 宮城県

――――――――――――――――――――――――【 ヒメフタオカゲロウ 】――――――――――――――――――――――――

生息環境:細流・山地渓流・平地渓流。平地・丘陵地・山地の低標高部で普通。 記録済みの地域:岩手・宮城・山形 幼虫の特徴:小型(終齢♂:8.5-10 mm, 終齢♀9.5-11 mm程度)。体斑はコントラストが強く、腹部第9・10節はともに暗色。テールは中ごろのみ黒褐色。ステージ後半の幼虫は腹部下面には斑紋が出る個体が多い(白く無斑な個体もいる)。 季節性・化性:春の中ごろ~初夏に羽化(平地・丘陵地で広くみられる同属諸種の中では最も羽化が遅い)/1年1化

終齢/♀(羽化直前)

2021.05.08 宮城県

終齢/♀(羽化直前)

2021.05.08 宮城県

終齢/♀

2021.05.20 山形県

終齢/♀

2024.04.05 宮城県

――――――――――――――――――――――――【 ヒメフタオカゲロウ 】――――――――――――――――――――――――

終齢/♀(羽化直前)

2021.05.08 宮城県

終齢/♀(羽化直前/腹面)

2021.05.08 宮城県

終齢/♀

2021.05.20 山形県

終齢/♀

2024.04.05 宮城県

――――――――――――――【 ヒメフタオカゲロウ型不明種① 】――――――――――――――

【 ヒメフタオカゲロウ型不明種② 】​

観察した環境:細流 記録済みの地域:山形 幼虫の特徴:ヒメフタオカゲロウに似るが、体色は全体的に淡く腹部背面側面ないし後縁に赤みを帯びた淡褐色斑をもつ。腹部下面には斑紋が出る個体が多い。 季節性・化性:晩春に羽化/1年1化

観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:ヒメフタオカゲロウに似ており同時に採集されたが、体斑が全体的に不明瞭でテール中央の褐色のバンドが太い。ヒメフタオカゲロウの型の変異の範疇かもしれないが、種の断定は避けた。 季節性・化性:羽化期不明/1年1化

終齢/♂

2023.02.27 宮城県

終齢/♀(羽化直前)

2021.03.20 宮城県

終齢/♀

2021.03.10 山形県

――――――――――――――【 オオヒメフタオカゲロウ(仮称)】――――――――――――――

生息環境:山地渓流・平地渓流。開空度の高い山手の渓流に多い。 記録済みの地域:山形・宮城・福島・新潟 幼虫の特徴:既知の未記載種。国産既知種の中で最も大型(終齢♂:12-13.5 mm, 終齢♀13-15 mm程度)。ステージ後半の幼虫は腹部のえらが紅色で、胴体も暖色系の個体が多い(胴体の色彩は個体差が大きい)。 季節性・化性:南東北では国産同属の中で最も出現時期が早く、春の前半に羽化/1年1化

終齢/♂

2021.04.11 福島県

【 キョウトヒメフタオカゲロウ(?) 】​

観察した環境:山地渓流 記録済みの地域:福島 幼虫の特徴:テールは基部側半分ほどが全体的に濃色。腹部は各節全て同じ色彩。成虫を得ていないため種の断定は避けた。東北ではあまり見ない。 季節性・化性:春に羽化/1年1化

終齢/♂(背面と腹面)

2021.03.18 宮城県

終齢/♂(羽化直前)

2023.03.19 宮城県

終齢/♀(背面と腹面)

2021.03.18 宮城県

――――――――――――――――――――――【 マエグロヒメフタオカゲロウ 】――――――――――――――――――――――​

生息環境:山地渓流(△)・平地渓流・平地流(△)。オオヒメフタオよりも下流寄りに分布の中心を持ち、南東北では小規模な丘陵の水路状の小川等でも普通。 記録済みの地域:山形・宮城 幼虫の特徴:オオヒメフタオカゲロウよりわずかに小さい~同程度ほどの大型種(終齢♂:11-13 mm, 終齢♀12-14.5 mm程度)。画像は成虫を得て種を確定させたもので、幼虫の確実な同定キーは不明。 季節性・化性:春に羽化/1年1化

終齢/♂

2023.02.23 宮城県

【 マエグロモドキ(仮称)】​

観察した環境:丘陵の小河川 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:不明。幼虫はマエグロヒメフタオカゲロウに酷似し混生するが成虫の複眼色や陰茎の形状が異なる。 季節性・化性:春に羽化/1年1化

終齢/♂

2023.04.10 山形県

終齢/♂

2023.03.19 宮城県

終齢/♂

2020.04.17 宮城県

――――――――――――【 マエグロヒメフタオカゲロウ型不明種たち 】――――――――――――

観察した環境:山地渓流~平地流 記録済みの地域:各地 幼虫の特徴:不明。腹部第9節が濃色優位で10節が淡色優位、腹部第9節下面後縁の刺毛列が完全などのマエグロヒメフタオ系の特徴がみられるが、未知の未記載種が複数いると思われ、詳細不明。 季節性・化性:春に羽化/1年1化

終齢/♀(羽化直前)

2023.04.10 山形県

終齢/♀

2021.03.10 山形県

終齢/♀

2022.02.05 宮城県

終齢/♀

2021.04.11 福島県

―――――――――――――――――――【 マエグロヒメフタオカゲロウ型不明種たち 】―――――――――――――――――――

終齢/♀(羽化直前)

2024.04.06 山形県

【 マエグロヒメフタオカゲロウ

型不明種 】​

終齢/♂

2023.04.29 岩手県

亜終齢/♀

2023.04.29 岩手県

亜終齢/♂(腹面)

2023.04.29 岩手県

――――――――――――――【 ヒメフタオカゲロウ属 不明種① 】――――――――――――――

観察した環境:源流 記録済みの地域:岩手 幼虫の特徴:体表につやがありやや細身。上唇は無斑、テールに褐色のバンドがない。 季節性・化性:春に羽化/1年1化

終齢の2つ前(?)/♂(背面と腹面)

2023.03.22 宮城県

亜終齢/♀

2024.05.24 山形県

亜終齢/♀(腹面)

2024.05.26 宮城県

――――――​――――――​――​【 ヒメフタオカゲロウ属 不明種② 】―――――​―――​――――――​

観察した環境:源流・山地渓流(高冷地の沢や雪解け水由来の冷涼な沢、それが流れ込む沼) 記録済みの地域:山形・宮城 幼虫の特徴:体は透明感が強く、白と黒のコントラストが美しい。腹部下面各節後縁の刺毛は短い。腹部第8・9節下面には必ず褐色斑があり、褐色斑は他の体節まで連なっている個体もいる。 季節性・化性:春に羽化/1年1化


観察メモ
 ・ステージ後半の♂幼虫は複眼が大きく発達し寄り目に見えるため、雌雄判別が可能です。ステージ後半の♀幼虫は同齢の♂の1.1~1.3倍ほどの大きさです。
 ・泳ぎがうまく、刺激を加えると体を上下にくねらせて小魚のように直線的に泳ぎます。
 ・幼虫の同定キーとして、青木らは ①上唇の模様 ②犬歯 ③えらの色 ④腹部下面後縁の刺毛列の範囲 の4点を挙げていますが、①③④は一部の種を他種から見分ける際に
  有効なものの全体的な同定キーとするには弱く、②は種レベルで安定しない形質であることが分かりました(管理人調べ)。2024年現在、体サイズ・体斑・上唇の模
  様・腹部下面後縁の刺毛列の範囲・テールの模様・腹部第10節下面末端の棘(♂)などの特徴を総合的にみて種を推定するしかない現状ですが、そもそも未記載が多い
  ため一部を除き幼虫での種
同定は困難です。
   ▷ 青木 舜. 2010.  長良川・木曽川水系のヒメフタオカゲロウ属10種について(外部リンク)
 ・高温・酸欠にやや弱い側面をもち長時間の輸送は死亡リスクを伴いますが、飼育は容易なため室内での飼育で成虫を得ることができます。2022年以降、少しずつ幼虫-
  成虫の紐付けを試みており、現在も研究継続中です。川から拾ってきた石を飼育水槽に入れておけば石についた付着藻類が幼虫のえさになるほか、柔らかく煮崩した葉
  野菜をえさとして代用することも可能です。
​ ・エタノールやホルマリンで固定するとえらやテールが非常に脱落しやすくなってしまいます。

 

上唇の模様いろいろ

上唇は頭部を正面から見たときに中央下部に位置する横長長方形の領域です。この模様が種によって異なるとされることがありますが、​

同種内でも模様が安定しないものがあるほか、個体や撮影条件によっては背後にある大顎の輪郭が透けることで模様に見えてしまうことも多く、

​確実な同定キーとして用いることは危険です。

←    →

大顎の犬歯(矢印)

​犬歯と呼ばれる突起の先端には3-4本の歯があります。この歯はかみ合わせの関係で左右で本数や並びが異なる個体が多く、さらに脱皮から時間が経っている個体では摩耗して削れていることもあります。種同定には不適です。

​マエグロヒメフタオカゲロウ型種群の一種

内棘:外棘≒1:2.25 程度

​外棘は非常に長い

↑↑↑↑

マエグロヒメフタオカゲロウ型種群      ヒメフタオカゲロウ型種群

腹部第8節 下面後縁の刺毛列

現時点で最も種レベルで形態が安定していると思われる同定キーのひとつがこの刺毛列です。

​種によって刺毛の長さが異なるほか、刺毛の範囲(節の中央まで刺毛があるかないか)も異なります。

第8節より前の節にも刺毛の特徴がみられることがあるようなので、今後は第1-7節も観察したいと

​考えています。プレパラートに脱皮殻・羽化殻をのせ、カバーガラスで軽く圧すると観察しやすいです。

​ヒメフタオカゲロウ属 不明種②

内棘:外棘≒1:1.2 程度

​内棘・外棘ともに短小

​ヒメフタオカゲロウ

内棘:外棘≒1:1.35 程度

外棘先端は外側に弱く反る

 

ステージ後半の♂幼虫でしか観察できないという縛りがありますが、腹部第10節下面の棘も種同定の有力なキーと思われます。

本HPでは暫定的に、先端が尖った内側の短い棘を内棘(青矢印/青の補助線)、先端が丸い外側の長い棘を外棘(赤矢印/赤補助線)と呼びます。

​2025年のシーズン以降、各種のデータが集まり次第、成虫データとともに追記していきます。


成虫【準備中…】

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