An Artless Riverside 川虫館
【ガガンボカゲロウ科 Dipteromimidae】
大型のカゲロウで、寸胴で細長い体型です。大型個体では20 mm(終齢、触覚・テールを除く)を超すものもおり、モンカゲロウやオオフタオカゲロウなどと並び国内最大級のカゲロウです。
①ツノ状に発達した大顎が頭部前方に突出しない
②前脚の内側に長い剛毛が密生しない
③複眼が頭部の側面についている
④左右のテールの外側には毛が生えていない
⑤腹部各節のえらは1対ずつで、口器の小顎鬚が長い
以上の5点を順番に観察することで他科から区別できます。形態はフタオカゲロウ科・ヒメフタオカゲロウ科にやや似ていますが、生息環境は特異かつ分布も局所的で、生息域外では基本的に同定の候補に入れる必要はありません。
下位分類(国産既知種のリスト)
ガガンボカゲロウ属 Dipteromimus
・ガガンボカゲロウ Dipteromimus tipuliformis McLachlan, 1875
・キイロガガンボカゲロウ Dipteromimus flavipterus Tojo & Matsukawa 2003
(日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018)に基づく)
以上1属2種のみでガガンボカゲロウ科を構成します。両種ともに日本固有種とされており、カゲロウの中では唯一の日本固有科です。長らく西日本にガガンボカゲロウ1種のみが知られていましたが、2000年代に入ってから岩手県からキイロガガンボカゲロウが発見され、2003年に新種として記載されました。
フォトギャラリー
終齢/♂(羽化直前)
2023.04.29 岩手県
終齢/♀
2023.04.29 岩手県
観察メモ
・体型の性差はほぼありませんが、ステージ後半の♀幼虫は同齢の♂の1.1-1.2倍
ほどの大きさです。
・実物を見ないとなかなか伝わりませんが、体表には強いつやがあります。
・ステージ後半の♂幼虫の複眼は♀幼虫の複眼よりやや大きいですが、複眼サイズ
の性差は他の多くのカゲロウに比べると顕著ではなく、カゲロウを見慣れていて
も雌雄判定に迷うこともあります。
・腹部各節のえらを筋肉で動かして呼吸を補助することができますが、体に対して
えらが小さいためか溶存酸素が低い環境への耐性は高くありません。
・基本的にずっとのんびりと過ごしており、積極的に泳ぐことはありません。刺激
を加えると体全体を上下にくねらせて小魚のように泳ぎますが、持久力はなく短
距離しか泳ぎません。
・エタノールやホルマリンで固定すると腹部のえらがきわめてとれやすくなりま
す。色の変化(退色)や体型の変化は顕著ではありません。
――――――――【 キイロガガンボカゲロウ 】――――――――
生息環境:源流 記録済みの地域:岩手 幼虫の特徴:寸胴で細長く体表のつやが強い。ステージ中盤の幼虫はヒメフタオカゲロウ科に似るが、脚や小顎鬚がより長いことで見分けられる。 季節性・化性:晩春~夏に羽化/1年1化
口器周辺
上唇と小顎に長い毛が密生します。
茹でキャベツを食べる幼虫(飼育下)
生息環境
生息環境例(岩手県/3月)
生息環境例(岩手県/3月)
自然度の高い良い環境ですが、この手の環境は探せば全国各地にあり、ここまで偏った分布をしているのが不思議です。移動力がきわめて低いことの表れなのでしょうが、限られた地域のこんな環境でよく何万年も命を繋いできたものだと感心させられます。
日本の固有グループなこともあって研究対象として面白く、生態学・集団遺伝学・生物地理学などさまざまな側面から掘り下げ甲斐のあるカゲロウです。ここでは一例として、以下にガガンボカゲロウに関する先行研究をひとつ紹介します。
▷ 東城幸治, 2004. 河川源流域に棲息する水生昆虫類の遺伝的特性(外部リンク)