An Artless Riverside 川虫館
【ナガレトビケラ科 Rhyacophilidae】
つや・透明感のある腹部をもつ種が多い中型ないしやや大型のトビケラです。図鑑的には
①中胸・後胸はキチン化せず膜質
②触角は短く観察しにくい
③腹部第9節背面にキチン板がある
④可携巣はもたず、前胸腹板突起はない(トビケラ科との区別点)
⑤尾肢は長く、内側にカーブする(ヤマトビケラ科との区別点)
以上の5点を順番に観察することで同定されますが、検索の④・⑤において分岐するトビケラ科・ヤマトビケラ科はいずれもケーストビケラであり幼虫の外観は大きく異なっているため、慣れれば野外でもすぐに科レベルまで同定することができます。なお、腹部はきわめて伸縮性に富んでおり姿勢によって体型が大きく変化するため、体つきは同定の際に全く参考になりません。
下位分類(国産既知種のリスト)
オオナガレトビケラ属 Himalopsyche
・オオナガレトビケラ Himalopsyche japonica (Morton, 1900)
ナガレトビケラ属 Rhyacophila
・カクオナガレトビケラ Rhyacophila angulicauda Kawase, 2024
・アラカワナガレトビケラ Rhyacophila arakawa Ito, 2021
・アレフィンナガレトビケラ Rhyacophila arefini Lukyanchenko, 1993
・エダエラナガレトビケラ Rhyacophila articulata Morton, 1900
・アズマナガレトビケラ Rhyacophila azumaensis Kobayashi, 1973
・フタタマオナガレトビケラ Rhyacophila bilobata Ulmer, 1907
・ヒロアタマナガレトビケラ Rhyacophila brevicephala Iwata, 1927
・クララナガレトビケラ Rhyacophila clara Hattori & Ohkawa, 2007
・クレメンスナガレトビケラ Rhyacophila clemens Tsuda, 1940
・サジオナガレトビケラ Rhyacophila coclearis Hsu & Chen, 1996
・クラッサナガレトビケラ Rhyacophila crassa Schmid, 1970
・シナノアミメナガレトビケラ Rhyacophila curtior Schmid, 1970
・ミジカオナガレトビケラ Rhyacophila diffidens Tsuda, 1940
・フリントナガレトビケラ Rhyacophila flinti Schmid, 1970
・タイワンナガレトビケラ Rhyacophila formosana Ulmer, 1927
・ニマタナガレトビケラ Rhyacophila furcicauda Kawase 2024
・マガリナガレトビケラ Rhyacophila hamata Hattori & Ohkawa, 2007
・ハコネナガレトビケラ Rhyacophila hayakawai Kobayashi, 1969
・ハットリナガレトビケラ Rhyacophila hattorii Torii, 2021
・ホッカイドウナガレトビケラ Rhyacophila hokkaidensis Iwata, 1927
・タシタナガレトビケラ Rhyacophila impar Martynov, 1914
・イナズナガレトビケラ Rhyacophila inazui Kawase, 2024
・イシゲナガレトビケラ Rhyacophila ishihanaensis Kobayashi, 1984
・イトウナガレトビケラ Rhyacophila itoi Tsuda & Kawai, 1967
・カルダコフナガレトビケラ Rhyacophila kardakoffi Navás, 1926
・カワムラナガレトビケラ Rhyacophila kawamurae Tsuda, 1940
・カワラボウナガレトビケラ Rhyacophila kawaraboensis Kobayashi, 1976
・キソナガレトビケラ Rhyacophila kisoensis Tsuda, 1940
・キヨスミナガレトビケラ Rhyacophila kiyosumiensis Kuranishi, 1990
・コバヤシナガレトビケラ Rhyacophila kobayashii Torii, 2021
・コウノナガレトビケラ Rhyacophila kohnoae Ross, 1956
・クラマナガレトビケラ Rhyacophila kuramana Tsuda, 1942
・クラニシナガレトビケラ Rhyacophila kuranishii Torii, 2021
・クワヤマナガレトビケラ Rhyacophila kuwayamai Schmid, 1970
・ユミナガレトビケラ Rhyacophila lambakanta Schmid, 1970
・レゼイナガレトビケラ Rhyacophila lezeyi Navás, 1933
・マキナガレトビケラ Rhyacophila makiensis Kobayashi, 1987
・マヤナガレトビケラ Rhyacophila mayaensis Kobayashi, 1973
・ミノヤマナガレトビケラ Rhyacophila minoyamaensis Kobayashi, 1973
・ホソオナガナガレトビケラ Rhyacophila mirabilis Levanidova & Schmid, 1977
・ミヤノウラナガレトビケラ Rhyacophila miyanoura Ito, 2021
・モタカンタナガレトビケラ Rhyacophila motakanta Schmid, 1970
・ナガオカナガレトビケラ Rhyacophila nagaokaensis Kobayashi, 1976
・ナガタナガレトビケラ Rhyacophila nagata Ito, 2021
・ナカガワナガレトビケラ Rhyacophila nakagawai Kobayashi, 1969
・ムナグロナガレトビケラ Rhyacophila nigrocephala Iwata, 1927
・ニイザキナガレトビケラ Rhyacophila niizakiensis Kobayashi, 1976
・ニッポンナガレトビケラ Rhyacophila nipponica Navás, 1933
・ニワナガレトビケラ Rhyacophila niwae Iwata, 1927
・トガリミジカオナガレトビケラ Rhyacophila orthacantha Emoto, 1979
・ヘイワナガレトビケラ Rhyacophila pacata Tsuda, 1940
・ヒメクレメンスナガレトビケラ Rhyacophila parvicauda Kawase, 2024
・ウエノナガレトビケラ Rhyacophila retracta Martynov, 1914
・サトウナガレトビケラ Rhyacophila satoi Kuranishi, 1997
・セキガワナガレトビケラ Rhyacophila shekigawana Kobayashi, 1973
・シコツナガレトビケラ Rhyacophila shikotsuensis Iwata, 1927
・シライシナガレトビケラ Rhyacophila shiraishiensis Kobayashi, 1971
・タチカワナガレトビケラ Rhyacophila tachikawana Kobayashi, 1973
・トワダナガレトビケラ Rhyacophila towadensis Iwata, 1927
・トランスクィラナガレトビケラ Rhyacophila transquilla Tsuda, 1940
・ツシマナガレトビケラ Rhyacophila tsusimaensis Kobayashi, 1985
・ウルマーナガレトビケラ Rhyacophila ulmeri Navás, 1907
・ベレクンダナガレトビケラ Rhyacophila verecunda Tsuda, 1940
・ニシクレメンスナガレトビケラ Rhyacophila vesperalis Kawase, 2024
・ヤクシマナガレトビケラ Rhyacophila yakushima Ito, 2021
・(和名未定) Rhyacophila yamamotoi Nozaki, 2021
・ヤマナカナガレトビケラ Rhyacophila yamanakensis Iwata, 1927
・ヨシノナガレトビケラ Rhyacophila yoshinensis Tsuda & Kawai, 1967
・ヨシイナガレトビケラ Rhyacophila yosiiana Tsuda, 1940
・ユウキナガレトビケラ Rhyacophila yukii Tsuda, 1942
( 日本産トビケラのリスト (外部リンク/2024年9月閲覧)に基づく)
以上、2属71種が知られているほか、ナガレトビケラ属には多数の未記載種が知られており最終的に国内の種数は200とも300とも推測されています。ナガレトビケラ属は日本の川虫の中で最も複雑な種分化が生じている種群であり、分類学的な研究は全く追いついていません(幼虫の種同定には頭・胸部の模様と色のほか、尾肢の形および尾肢副爪の歯状突起の生え方・数が有効とされます)。また、ナガレトビケラ属の諸種は明確にいくつかの種群に分けることができ、複数の属に分割するほうがよいとの見方もあります。
フォトギャラリー
終齢/雌雄不明
2023.12.08 宮城県
終齢/雌雄不明
2023.03.22 宮城県
前蛹/雌雄不明
2023.03.22 宮城県
――――――――――――――――【 トワダナガレトビケラ 】――――――――――――――――
観察した環境:源流・山地渓流 記録済みの地域:宮城・新潟 幼虫の特徴:腹部にふさ状のえらがある。頭部と前胸はそれぞれが褐色とクリーム色のツートンカラー。尾肢は下の画像参照。 季節性・化性:春に羽化の1年1化と思われるが詳細不明
終齢/雌雄不明
2024.05.24 山形県
【 レイゼイナガレトビケラ(?) 】
観察した環境:源流 記録済みの地域:山形 幼虫の特徴:レイゼイナガレトビケラに似るが頭胸部の斑紋が典型的なものと異なるため保留。尾肢は下の画像参照。 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
終齢/雌雄不明
2019.07.07 秋田県
終齢/雌雄不明
2024.03.16 山形県
――――――――【 レイゼイナガレトビケラ 】――――――――
生息環境:源流・山地渓流(温泉水が流入する強酸性河川を含む) 記録済みの地域:秋田・山形 幼虫の特徴:腹部にふさ状のえらがある。トワダナガレトビケラに似るが、頭部と前胸が広く黄色。胴体(軟体部)が薄く紫がかる個体ばかり見ているが、まだ観察数は多くないため詳細は不明。尾肢は下の画像参照。 季節性・化性:青谷ら(2019)は温泉水が流入する秋田県の河川において春~秋まで断続的に羽化することを報告しているが、調査地は普遍的な環境ではなく一般的な季節性は不明。
終齢/雌雄不明
2022.03.29 宮城県
終齢/雌雄不明
2022.04.23 宮城県
―――――――【 ヒロアタマナガレトビケラ 】―――――――
生息環境:山 地渓流・平地渓流。少なくとも南東北エリアでは開空度の高い山地渓流~平地渓流でよくみられる普通種のひとつ。 記録済みの地域:山形・宮城・新潟 幼虫の特徴:腹部にえらはなく頭部・胸部はオレンジ色(本種に限ったことではないが、脱皮直後は色が異なるので注意)。和名の通り頭部の横幅が広く、前脚が中脚・後脚に比べてよく発達している。尾肢は下の画像参照。 季節性・化性:春に羽化の1年1化と思われるが、積算温度の大きいエリアでは秋にも羽化する1年2化のものがいる可能性あり
終齢(脱皮直後)/雌雄不明
2020.01.11 宮城県
【 ヒロアタマナガレトビケラ 】
終齢/雌雄不明
2024.01.13 宮城県
終齢/雌雄不明
2022.05.04 山形県
前蛹/雌雄不明
2024.04.05 宮城県
――――――――――――――【 トランスクィラナガレトビケラ 】――――――――――――――
生息環境:山地渓流(まれ)・平地渓流。少なくとも南東北エリアでは開空度の高い平地渓流でよくみられる普通種のひとつ。 記録済みの地域:山形・宮城・新潟 幼虫の特徴:腹部にえらはなく頭部は黒褐色、前胸は白。尾肢は下の画像参照。 季節性・化性:春~夏に羽化の1年1化と思われ、羽化時期はあまり同調的ではない。積算温度の大きいエリアでは秋にも羽化する1年2化のものがいる可能性あり。
終齢/雌雄不明
2024.04.19 宮城県
終齢/雌雄不明
2021.03.18 山形県
――――――――【 キソナガレトビケラ(?) 】――――――――
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:山形・宮城 幼虫の特徴:体型はヒロアタマナガレトビケラなどに似る。頭部は褐色で後縁が橙色、前胸は緑~黄緑で淡い褐色斑がある個体が多い。腹部は緑~緑がかった褐色。尾肢は下の画像参照。 季節性・化性:春に羽化し1年1化と思われるが詳細不明
終齢/雌雄不明
2022.04.23 宮城県
亜終齢(?)/雌雄不明
2018.11.24 新潟県
――【 ムナグロナガレトビケラ or ニッポンナガレトビケラ】――
観察した環境:山地渓流・平地渓流。少なくとも東北地方では山地渓流~平地渓流でよくみられる普通種のひとつで、ナガレトビケラ属の中でも最も汚濁や撹乱の進んだ環境に耐性を示す種の筆頭。 記録済みの地域:岩手・山形・宮城・福島・新潟 幼虫の特徴:頭胸部が広く黒く、姿勢次第ではあるが属の中ではかなりスリムな部類。尾肢は下の画像参照。幼虫による2種の確実な識別は困難とされる。 季節性・化性:春~夏(一部秋)に羽化/1年1化(一部1年2化)
終齢/雌雄不明
2020.12.19 宮城県
終齢/雌雄不明
2020.01.02 山形県
――――――――【 カワムラナガレトビケラ 】――――――――
観察した環境:源流・山地渓流 記録済みの地域:山形・宮城・新潟 幼虫の特徴:頭胸部が広く橙色、姿勢次第ではあるが既知の国産ナガレトビケラの中では最もスリム。尾肢は下の画像参照。 季節性・化性:春に羽化/1年1化程度
終齢/雌雄不明
2018.11.08 新潟県
【 シコツナガレトビケラ(?) 】
観察した環境:山地渓流 記録済みの地域:新潟 幼虫の特徴:カワムラナ ガレトビケラに酷使するが頭部や前脚基部の突起の形、尾肢の形状などが異なる。 季節性・化性:詳細不明
終齢(?)/雌雄不明
2020.01.11 宮城県
【 ヤマナカナガレトビケラ(?) 】
観察した環境:山地渓流 記録済みの地域:新潟 幼虫の特徴:カワムラナガレトビケラに酷使するが頭部や前脚基部の突起の形、尾肢の形状などが異なる。 季節性・化性:詳細不明
終齢/雌雄不明
2021.02.07 宮城県
【 ナガレトビケラ属不明種① 】
観察した環境:源流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(種レベルまで同定できていないため割愛) 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
亜終齢(?)/雌雄不明
2019.01.15 新潟県
【 ナガレトビケラ属不明種② 】
観察した環境:山地渓流 記録済みの地域:新潟 幼虫の特徴:(種レベルまで同定できていないため割愛) 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
終齢/雌雄不明
2020.01.19 宮城県
【 ナガレトビケラ属不明種③ 】
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(種レベルまで同定できていないため割愛) 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
亜終齢(?)/雌雄不明
2024.06.27 宮城県
【 ナガレトビケラ属不明種④ 】
観察した環境:山地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(種レベルまで同定できていないため割愛) 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
観察メモ
・胸部は前胸のみがキチン化しており、中胸・後胸は膜質です。
・写真では分かりにくいですが、胴体には長い感覚毛がまばらに生えています。
・エタノールやホルマリンで固定すると数分で体色が変色してしまいます。体色は種によってある程度決まっており同定の手掛かりにもなるため、生時に観察するのがお
すすめです。
・未記載種がきわめて多く、特に調査の進んでいない地方の山地渓流に行くと容易によく分からない種が登場します。同定形質がはっきりしている一部の種を除き無理に
種レベルまで同定しないほうがよいです。
・北日本には生息していないため個人的には未観察ですが、西日本に生息するオオナガレトビケラはダムなどの建設によって河床がアーマーコート化した河川で大発生す
ることがあるようです。
画像:各種の尾肢の歯状突起
トワダナガレトビケラ
歯状突起は3本で、最も外側の突起が特に大きく明瞭。中央の小さい突起 は角度次第では見えにくい。
トランスクィラナガレトビケラ
中央分節のやや内側に小さな歯状突起が
1本だけ認められる(角度次第ではきわめて見にくい)。
レイゼイナガレトビケラ(?)
歯状突起は3本で、最も外側の突起が特に大きく明瞭。中央の小さい突起は角度次第では見えにくい。
レイゼイナガレトビケラ
歯状突起は3本で、最も外側の突起が特に大きく明瞭。中央の小さい突起は角度次第では見えにくい。
ヒロアタマナガレトビケラ
明瞭な歯状突起はない
キソナガレトビケラ(?)
中央分節のやや内側に小さな歯状突起が
1本だけ認められる(ピンぼけですみません)。
ムナグロナガレトビケラ・
ニッポンナガレトビケラ
中央分節の外側に小さな歯状突起が1本だけ認められる(角度次第ではきわめて見にくい)。
カワムラナガレトビケラ
尾肢は長い。中央分節の外側に小さな歯状突起が1本あり、そのやや内側にほとんど痕跡的なものがもう1本ある(アングル次第では見えない)。
ナガレトビケラ属不明種④
歯状突起は5本で、中央分節の内側に1本、外側に4本が並ぶ。