An Artless Riverside 川虫館
用語集
本HPで使用している生物学・地形学の専門用語や、一般語句であっても自然科学分野では厳密な定義の上で(=一般語句とは異なったニュアンスで)使われている語句(50音)の解説です。特に重要な部分や誤解されることの多い注意点は黄色の太字で示しています。
※昆虫の体の部位の名称に関しては、川虫に独特なものを除いて記載していません。詳しくは図鑑等を参照してください。
【 あ 行 】
・亜成虫(あせいちゅう)…昆虫の中でもカゲロウ目だけにみられる独特の成長段階。形態は成虫とほぼ変わらないが、脚やテールが短い、複眼(♂)や産卵弁(♀)・交尾器が未発達、
翅が半透明で飛翔力が成虫より低いなど、成虫とは異なった性質をもつ。蛹を作らない不完全変態の昆虫は通常、終齢幼虫は1度の脱皮(=羽化)を経て成虫になるが、カゲロウは
終齢幼虫が脱皮して亜成虫となり、亜成虫が脱皮してようやく成虫となる(幼虫の脱皮は羽化、亜成虫の脱皮は単に脱皮ということが一般的)。
・エコトーン…水辺と陸とが接している部分のうち、完全な水とも陸ともいえない曖昧な部分のこと(≒湿地)。池のふちの、植物が生えていてびちゃびちゃしている部分などがイメージ
しやすい例。干潟・マングローブ・波打ち際・川の水量の増減で水没したりしなかったりする河原などはすべてエコトーンである。野生動物のほとんどが少なくとも生涯の一部の段
階で水辺と陸の両方にお世話になって生きているため、水辺と陸の境目であるエコトーンは、地表面積に占める割合はごくわずかであるにもかかわらず豊かな生物多様性の維持に貢
献する割合がきわめて高い。生物多様性保全の本質はエコトーンの保全ともいえるかもしれない。
【 か 行 】
・開空度(かいくうど)…自然環境下において地表や水面(本HPでは主に水面)の真上の空間がどの程度明るく開けているかの度合い。ほとんどの場合、ある場所の開空度はそこに樹木が
どの程度の密度で生育しているかに左右されるが、断崖に挟まれた谷底を流れる川など、地形条件が開空度に影響していることもある。
・外来種…人の手によって本来の生息地とは異なる場所に持ち込まれた生物のこと。異なる環境下で繁栄し、もともとそこいた生物(=在来種)やそこにあった生態系全体・人間の経済活
動などに著しい負の影響を与えるものは特に侵略的外来種と呼ばれるが、外来種=侵略的ではない。むしろ、異なる場所に持ち込まれたが最後、新しい環境に適応できずに死滅して
しまう生物のほうがケースとしては多い。他地域から自力で移動してきた生物は、もともとその地域にいなかったものだとしても外来種とは呼ばない。
・可携巣(かけいす)…トビケラの幼虫の巣のパターンのうちの一つで、幼虫がその中に入ったまま移動できるもの。巣材は一般に植物組織や砂礫を口から吐く絹糸で綴り合わせて巧妙に
作られるが、一部、環境中から巣材を調達せずに絹糸だけで巣を作るもの(クロツツトビケラなど)や小枝のかけらの内側をくり抜いたものをダイレクトに巣として利用するもの
(クチキトビケラ)なども知られる。⇔ 固着巣。
・河口…河川が海にそそぐ部分。あくまでも川のパーツの一つだが、海と川との相互作用が働くため、淡水と海水が混じり合う「汽水(きすい)」が存在し、他にも潮位の変化に伴う河川
水位の変動や淡水よりも比重の大きい海水が河床を遡上する「塩水楔」といった現象がみられる場合がある。なお、「河口=平地流的な環境」として認識されることが多いが、沿岸
部まで山地や丘陵地が迫っている地域では小河川が渓流環境のままで直接海にそそぐ場合もあり、そのような場合でも川と海の境目は立派な河口である。本HPでは使用しないが、海
ではなく大きな湖に河川が流れ出る場所にもしばしば用いられることがある。
・河床(かしょう)…川の底。
・河床間隙(かしょうかんげき)/ 河床間隙空間…河床材に礫が多い流程に主に形成される環境で、河床材の隙間に浸透した水が伏流水となって存在している地下の空間のこと。流路の真
下にあることが多いが、伏流水が多い扇状地では河床間隙空間が河原の陸地部分の下に大きく広がっていることもある。大型の捕食者が入り込めない、溶存酸素レベルが低い、水温
の変化が少ない、光が届かないなど独特の環境要素があり、しばしばそういった環境に特化したカワゲラや小型甲虫・ヨコエビなどが生息するほか、一部の川虫は生活史の一部に河
床間隙空間を利用する時期をもっていたりする。目に見えないため認識しにくく、調査が難しいため十分にその全貌が解明されていないが、水圏生態学的には研究のブルーオーシャ
ンで、ロマンがある。=hyporheic zone。
・化性(かせい)…自然下における生物(昆虫)のライフスパンのこと。例:成長に2年かかり、2年単位で1世代を繰り返すもの→「2年1化」。≒生活史。
・下流…河川を一本の線として引き延ばして考えた時に、海(支流の場合は本流との合流点)に近い部分約1/3ほどを指したもの。一般に平地流の環境を呈するが、流域の地形によっては下
流であっても渓流環境を呈することもある。つまり、川における、ある区間の相対的な位置を示す語句であり、環境を表す用語ではない。
・巨礫(きょれき)…巨大な礫(「礫」を参照)。
・グレイザー(刈取食者)…川虫を採餌タイプによって4つに分類した際のカテゴリのひとつ。岩盤や礫、流木などの基質の表面に生える付着藻類を大顎で刈り取るようにして食べる生態
を持つグループ。口の周囲の構造が付着藻の採取に特化している川虫が多い。研究者によっては、グレイザーをさらに2つ(付着藻を根元から摘んで丁寧に食べる『摘み採り食者
(browser)』と底質から伸長した部分だけを雑に食べる『剝ぎ採り食者(scraper)』)に細分することもある。
・渓流…河川のうち、水の流れかたが激しいものの呼称。厳密な定義はないが、水が音をたてて流れ河床に礫が優占している環境のことを指す。一般的には傾斜地に挟まれた「谷川」の意
味合いが強いが、生態学の用語には一般の渓流のイメージとは異なる、平坦地を流れる「平地渓流」の語彙があるため、本HPでは曖昧さ回避のために「渓流」単独での使用は極力避
けている。
・ケーストビケラ…トビケラの中でも、幼虫が可携性の巣筒(ケース)を作り、その中に入って暮らすタイプのもの。
・源流…河川の上流側の末端部のことを指すが、本HPでは特に、生態学的な性質によって河川を分類した際のカテゴリのひとつとして使用している。傾斜地を流れ、一般に大礫・巨礫が豊
富で、流路のところどころに小さな滝状の段差がみられる環境。一般に、下流端でグラデーション的に山地渓流環境に変化する。
・固着巣(こちゃくす)…水生昆虫(主にトビケラの話で多用される)の幼虫の巣のパターンのうちの一つで、巣が水底に固定されていて移動させることができないもの。巣の主が口から
吐く糸や粘液を用いて作られており、外敵からの捕食から逃れるシェルターとして機能するだけでなく、トビケラではエサとなる水中の有機物を巣にひっかけて集めるような使われ
方もする。
・コレクター(収集食者)…川虫を採餌タイプによって4つに分類した際のカテゴリのひとつ。河川水中に存在する細かい有機物を集めて食べる生態を持つグループ。有機物の集め方はそ
れぞれで、河床に網を張って上流から流れてくる有機物をキャッチするものもいれば、自らが掘った筒状の巣の中に水流を生じさせて、水と共に流れ込んでくる粒子を食べるものも
いる。
・コンディショニング…水中に落下した植物枯死組織(落ち葉や樹皮、木の枝や幹など)が微生物の作用によって分解され柔らかくなること。未分解の状態の植物組織を直接かじることが
できる川虫はごく限られているが、コンディショニングが進んだ植物組織は多くの川虫の餌資源となる。生態学の中でもそれほど一般的な用語ではないため本HPでは積極的にこの語
句は用いていなが、既存の日本語にはこれにぴったりと対応する語彙がなく、詳しい人同士で水圏生態系に特化した話をする際にはとても便利な言葉である。
【 さ 行 】
・細流…水量の少ない、細い流れ。人が飛び越えられる程度、またはそれ以下の幅のものを想定している。明確な定義はないが、生き物屋的な「いわゆる細流」環境には「いわゆる細流」
に固有の生物や生態系が存在することが多く、それらを説明する際に用語として使用できたほうが便利である。本HPでは「細流」を「緩傾斜地、あるいは平坦地を流れる、河床に落
葉などの有機物が豊富な水量が少ない流れ」として定義し、生態学的な性質によって河川を分類した際のカテゴリのひとつとして使用している。水量が少ない流れのうち急傾斜地を
流れるものは河床に無機物(砂礫)が優占することが多く(=「源流」的環境)、生物の生息場としての性質が異なる。
・細礫(さいれき)…細かい礫(「礫」を参照)。
・山地渓流…生態学的な性質によって河川を分類した際のカテゴリのひとつ。傾斜地の間(=谷)にあり、流速の大きな水が音をたてて流れ、河床に礫が優占している環境のこと。一般
に、上流端ではグラデーション的に源流環境に変化し、下流端ではグラデーション的に平地渓流環境に変化する。「上流」と混同されがちで、実際に上流域は源流や山地渓流の環境
であることが多いが、「上流」はあくまでも「ある区間の、川全体における相対的な位置」を示す語句であり、環境を示す用語ではない。場合によっては、中流域や下流域に成立す
る山地渓流環境もある。
・翅芽(しが)…不完全変態の昆虫の幼虫がもつ器官のひとつ。成虫の翅の原器。幼虫の途中から形成され、ステージ後半の幼虫では翅芽の大きさや形状が齢判定の目安となる。羽化が迫
ると内部に翅が形成されることで膨張・変色が生じるため、羽化時期の推定にも有用。
・自然度(しぜんど)…水質・植生・周辺環境・外来種の有無などから総合的に判断した、環境(本HPでは水域)の良し悪しの尺度。本HPではあえて定量化されていない漠然とした概念
として使用しているが、個々の生物の生息の可否を規定するパラメータは1つではないため、環境の良し悪しをカジュアルに示すことができるこの語句は便利(学術論文等での使用
には慎重になるように)。人の手が入っていない原生的な自然や昔ながらの人々の生活に根差した里山的環境は自然度が高く、都市化や農地化が進んだ地域は自然度が低いというイ
メージ。ただし人の生活圏が近い環境であっても、自然度が高く保たれている環境は存在する。=環境の健全度、≒environmental soundness/health
・染み出し…傾斜地において、土壌中・地盤中に存在していた地下水が少量ずつ地表に出てきている部分。本HPでは、生態学的な性質によって河川を分類した際のカテゴリのひとつとして
扱っている。水系における上流側の末端、河川が生まれる場所。水量が少ないため水流による浸食作用がきわめて小さく、安定した土壌が接しており周囲に湿生植物や蘚苔類が生え
るなどして独特の微小生態系を形成していることが多い。平坦地で地下水が地表に出てくる場合は地表の開口部が水没するため、染み出しではなく湧水という区分になる。「滲み出
し」とも。
・自由水…生態学的には、基質(地面など)の上に出ており、内部を魚や昆虫などが自由に泳ぎ回ることができる水の塊のこと(容積の厳密な定義はない)。我々が目にする川や池・海の
水はすべて自由水である。⇔ 伏流水・地下水。(化学分野では水のかたまりではなく水「分子」が自由に動くことのできる水のことを指し、ニュアンスが異なる。)
・シュレッダー(破砕食者)…川虫を採餌タイプによって4つに分類した際のカテゴリのひとつ。大顎で植物組織やデトリタスなどを細かく噛み砕いて(または切り取って)食べる採餌方
法をとるものの総称。
・上流…河川を一本の線として引き延ばして考えた時に、海(支流の場合は本流との合流点)から最も遠い部分約1/3ほどを指したもの。一般に渓流の環境を呈するが、流域の地形によって
は上流部でも平地流的なおだやかな流れがあったりもする。つまり、川における、ある区間の相対的な位置を示す語句であり、環境を表す用語ではない。
・スウォーミング…カゲロウの♂成虫が行う生態行動のひとつ。川面上空や川の付近の一定空間を規則的な上下動をしながら飛翔して交尾相手である♀の飛来を待ち構える行動のうち、特
に複数で群れ飛ぶものを指す。カゲロウ全種がスウォーミングを行うわけではないが、種によってスウォーミングの季節や時間、場所などが細かく決まっていることが多く、生態学
的に深堀りすると面白い。きわめて短命なカゲロウ成虫にとっては人(?)生の華を飾る大イベントと言っても過言ではないかもしれない。
・砂…岩石が風化・浸食・運搬され生じた陸源の砕屑物のうち、粒径が62.5 µm(1/16 mm)以上・2 mm以下のもの(地質学・生態学的上での定義。身近なものを引き合いに出すと、500
円玉の厚みがだいたい2 mm(厳密には1.85 mm))。砂岩や花崗岩の風化等でよく生産される。「泥」と「礫」の中間的なサイズなので水流による運ばれやすさも両者の中間。渓流
域の流れが穏やかな部分や平地渓流~平地流の移行帯あたりに特にまとまって堆積しやすい。水生昆虫からみると「泥ほど簡単に潜り込むことはできず、礫ほどは足場としてしっか
りしていない」ようで、砂底の環境は泥底・礫底の環境に比べると生物の多様性はやや下がる(もちろん砂底に特化した生物自体は数多くいる)。トビケラの巣材としては優秀なよ
うで、色々な種の巣に最も頻繁に用いられる材料である。
【 た 行 】
・大礫(だいれき)…大きな礫(「礫」を参照)。
・湛水域(たんすいいき)…ダムや堰などの人工的な構造物によって河川がせき止められている部分のこと。一般に水深が深く流速が小さいため止水域に似た環境を呈することが多く、河
川の一部であっても止水性の水生生物がよく利用する。
・中流…河川を一本の線として引き延ばして考えた時に、上流と下流に挟まれた中央部分約1/3ほどを指したもの。一般に平地渓流や平地流の環境を呈するが、流域の地形によっては流速は
さまざまで、それに伴って植生・景観や生息する川虫相も変化する。つまり、川における、ある区間の相対的な位置を示す語句であり、環境を表す用語ではない。
・デトリタス…水中の微細な有機物の総称。植物枯死組織のかけら、プランクトン、河床から遊離した付着藻類、生物の遺骸や脱皮殻・糞のかけらなど、環境中のあらゆる有機物が材料と
なる。デトライタスとも。
・同定…生物の形質を観察(あるいは遺伝子の塩基配列を解析)して分類上の所属を決定すること(生物学上での定義)。分類の最小単位である種レベルに限らず、科や属など、任意の分
類階級で用いられる。なお分類学的なニュアンスとしては、ある生物を高次の分類レベルからより詳細な分類レベルへと落とし込む(例:目から科、属から種など)という意味が強
く、単に「AとBを区別する(A・Bは分類単位が必ずしも一致していない)」ことを「同定する」と言うことはほぼない。「本HPを読んで種名を知りたい川虫の名前を絞り込む」と
いう作業は全体で見れば紛れもない同定作業であるが、その際の一つ一つの手順(例:腹部のえらが途中で分岐しているかどうかを見る、など)は一問一答式の選択となるため、本
HPではあえて「同定」の語句を避け「識別」や「区別」と表記している部分が多いことは断っておきたい。
・同定キー…生物の同定をするにあたってポイントとなる部分。観察しやすく、種(あるいはグループ)内の変異が少ない特徴ほど好ましい。=同定形質。
・同定形質…「同定キー」と同義。
・泥…岩石が風化・浸食・運搬され生じた陸源の砕屑物のうち、粒径が62.5 µm(1/16 mm)以下のもの(地質学・生態学的上での定義。身近な例だと、コピー用紙やティッシュ1枚の厚み
が50 µm程度)。粒径によって区分された岩石の風化産物(泥 / 砂 / 礫)のうち最も軽いため最も下流域まで運搬されやすく、平地流の河床の堆積物として優占することが多い。泥底
を好む生物の多くは、泥に潜り込んで外敵の目を逃れる生存戦略をとる。上流域や中流域でも流れの遅い・ほとんどない部分では局所的に泥がたまり、そういった場所には局所的な
泥底環境を利用する生物が集まる。
【 な 行 】
・肉質隆起/肉質突起(にくしつりゅうき/にくしつとっき)…多くのケーストビケラの腹部第一節の背面や側面にみられる、こぶないし突起状の器官。ケーストビケラの巣は成長に伴って
少しずつ改築されるが、基本的に幼虫の成長や食後の一時的な体型変化などを見越して幼虫本体の胴体がフィットするよりもわずかに余裕をもったサイズで作られている。ケースト
ビケラは皆、胴体の末端にある尾肢の爪を巣の内部にひっかけることによって体が巣から抜けないようにしているが、巣の入り口に近い部分に肉質突起があることによってさらに移
動時の巣の持ち運びが安定するものと思われる。他にも何かしらの機能があるのかもしれないが、詳しくはよく分からない。
【 は 行 】
・飛沫帯(ひまつたい)…滝の周辺など、水しぶきが絶えず当たることで「水が直接流れてはいないが常に濡れている環境」のこと。一般に岩盤面であることが多く、むき出しの岩盤面環
境、またはコケやシダなどの限られた植生に覆われる。特殊環境であり生物多様性は高くないが、オビカゲロウやイワヒラタカゲロウ、ノギカワゲラなどの一部の川虫は飛沫帯に特
化した進化を遂げている。基質が岩盤面ではなく透水性の高い土壌になっている場合には同じく特殊な微小流水環境である染み出しと区別しにくいこともあるが、飛沫帯は染み出し
と異なり外部から水が供給されているため必然的に真横に水量の豊富な流れがあることが多く、生息する生物の構成が少し異なる。海洋生物の分野では潮上帯(=splash zone ,
supralittoral zone)のことを飛沫帯と呼ぶが、本HPにおける飛沫帯は淡水域の話なので、それとは狭義的に異なる。
・伏流(ふくりゅう)…河川の水が地下を流れること。川が河床まで完全に護岸されていたり全く透水性のない一枚岩の上を流れていたりするなどの特殊な場合を除き、川の水は大なり小
なり必ず一部が地下を伏流している。透水性の高い扇状地などで特に顕著で、伏流水の環境(=河床間隙空間)に特化した水生生物も知られる。地表を流れる自由水が枯れてしまい
伏流水だけとなった(一見すると「干上がった」状態の)川のことを「水無川」などとも言う。地表の自由水に比べて伏流水の量は少なく、我々は生活の中で伏流水を直接見ること
ができないため生態学の中でも長らく研究が疎かにされてきたふしがあるが、近年は地下水に特化した生物の研究なども進み、生態学的な意味でも河川工学的な意味でも、伏流水の
重要性が見直されつつある。
・物質循環…地球上のさまざなま物質が 自然現象/地学的イベント/生物の作用 によって姿を変え、運ばれて…を繰り返すこと。雨が川になって海に入り、蒸発して雲になって…が分か
りやすい例だが、水に限らず、あらゆる物質が複雑な過程を経て地球の中を循環している。とりわけ生態学では有機物の流れに着目することが多く、有機物の流れは食物連鎖や生物
の移動が原動力となる。
・付着藻 / 付着藻類(ふちゃくそう(るい))…水底で生育する藻類の総称。水底まで光が届く浅い水域で多くみられる。藍藻・緑藻・珪藻など種類は非常に多岐にわたる。川虫やアユな
どの重要な餌として生態系にはなくてはならない存在である一方、何らかの原因で異常に増殖してしまうと川沿いの異臭や水生生物の減少などを引き起こす。付着藻は種によって好
む水質や水温に違いがあるため、生物を用いた水質調査の一環として利用されることもある。近年、ミズワタクチビルケイソウ等の外来の付着藻が各地の河川に侵入して問題となっ
ている。付着藻はその性質上、一旦水辺に侵入すると根絶することがほぼ不可能なので、持ち込まないことが非常に大事。地域をまたいで水辺の活動をする際には、長靴・ウェーダ
ー・網等の殺菌はこまめに行いましょう(熱いお湯をかけるのが簡単)。
・プレデター(捕食者)…川虫を採餌タイプによって4つに分類した際のカテゴリのひとつ。他の生物を襲って食べる二次消費者。一次消費者がグレイザー・シュレッダー・コレクターの3
タイプに分けられることを加味するとかなり雑な分け方であり、獲物の捕まえ方にかかわらず肉食の川虫はすべて「プレデター」とひとまとまりにされることが多いが、水圏生態系
の物質循環や食物連鎖を考える際には捕食者の捕食手段の違いはさほど大きな問題ではないため、一般にすべて「プレデター」とされる。細かく分けると、自らが積極的に動いて捕
食するタイプ(一部のカワゲラや一部のヤゴ・アメンボなど)やじっと動かずに待ち伏せて獲物を捕まえるタイプ(多くのヤゴや大型カワゲラ・ヘビトンボ・タガメなど)、網など
の道具を使って間接的に獲物をとらえるタイプ(ミズグモなど)などが存在する。
・平地渓流…生態学的な性質によって河川を分類した際のカテゴリのひとつ。傾斜地にあり、流速の大きな水が音をたてて流れ、水面にはところどころ(または全面)に白波が立つ瀬が存
在し、河床には礫が優占している環境のこと。平野の周縁部や扇状地に特に典型的にみられる。上流端ではグラデーション的に山地渓流環境に変化し、下流端ではグラデーション的
に平地流環境に変化する。「中流」と混同されがちで、実際に中流域は平地渓流環境であることが多いが、「中流」はあくまでも「ある区間の、川全体における相対的な位置」を示
す語句であり、環境を示す用語ではない。平地渓流環境の上流域もあれば、平地渓流環境の下流域もある。
・平地流…生態学的な性質によって河川を分類した際のカテゴリのひとつ。平坦地にあり、水の流れは一般に遅く、水面に白波は立たない。河床は砂泥や有機物で構成されることが多い
が、季節の流量変化が激しい河川では平地流であっても河床に礫が優占する場合もある。平野部や大規模な台地・盆地の中などに典型的にみられる。上流端ではグラデーション的に
平地渓流環境に変化し、下流端は河口となり海へそそぐ。「下流」と混同されがちで、実際に下流域は平地流環境であることが多いが、「下流」はあくまでも「ある区間の、川全体
における相対的な位置」を示す語句であり、環境を示す用語ではない。上流や中流に平地流の環境が成立することもある。なお、人工的な三面護岸の水路や運河なども流速や流路の
傾斜の点から見れば平地流にカテゴライズされる場合が多いが、本HPはあくまでも「野生動物の生息環境としての流水環境」を主題にしているため、人為的な介入の度合いが高く自
然度がきわめて乏しい水路・運河的な環境には「平地流」の語彙は適用していない。
【 や 行 】
・溶存酸素(ようぞんさんそ)…水生生物の活動に欠かせない、水中に溶けている酸素の量。単位:mg/L。DO(=Dissolved Oxygen)とも。気温や気圧によって数値が変動し、水温が低
いほど/気圧が高いほど、溶存酸素の最大値は大きくなる(自然下では水温が主要なパラメータとなる)。酸素の主な供給源は大気なので大気と接している水(水面直下の水)は溶
存酸素が多く、深い場所であまり動かない水(池の底など)は溶存酸素が少ない。強い水流によって絶えず水が撹拌されている渓流の水は溶存酸素レベルが高いが、平地流の深い部
分や止水域は溶存酸素レベルが低くなりがちなため、そういった環境へ進出している川虫はえらの構造等を特殊化させるなどの工夫をしている。
【 ら 行 】
・リター…植物の遺体に由来する大きな有機物全般をさす。具体的には落葉・落枝・樹皮片など。生態学では水陸関係なく用いられるが、水圏生態学の分野では水中に落下し水底に沈んだ
もの、という意味合いで用いられることが多い。樹林による水域へのリターの供給は水辺への有機物の供給の圧倒的な大部分を占めており、草食の川虫の餌になったり川虫に隠れ場
所を提供したりする。
・リターパッチ…河床に、部分的にリターがかたまった場所(「リター」を参照)。
・礫…岩石が風化・浸食・運搬され生じた砕屑物のうち、粒径が2 mm以上のもの(地質学・生態学的上での定義。身近な例だと、500円玉の厚みがおよそ2 mm(厳密には1.85 mm))。
粒径によって区分された岩石の風化産物(泥 / 砂 / 礫)のうち最も重いため水流によって運ばれにくく、上流寄りの流程に分布する。細礫:粒径2-4 mm、中礫:粒径4-64 mm、大
礫:粒径64-256 mm、巨礫:粒径256 mm以上 とさらに4段階に区分されることも多い。水生昆虫にとっては、大礫・巨礫は自分たちの体重・体格より十分に重く大きいため足場とし
てよく機能し、礫表面を這いまわったり礫同士の隙間に隠れたりする生態をもつ種が非常に多い。河床に礫が豊富に堆積すると地下の礫同士の隙間(=河床間隙)に水が多く蓄えら
れ、これも川虫の生活場所のひとつとして機能する。