An Artless Riverside 川虫館
【ヒゲナガトビケラ科 Leptoceridae】
種の多様性に富む小型~中型のケーストビケラです。図鑑的には、
①後胸背面は大きなキチン板で覆われない
②後脚は前脚・中脚より目立って発達しており、触角は頭部前縁に位置していて長い(幅の3倍以上)
以上の2点によって他科から区別されます。触角はルーペや顕微鏡下でないと観察しにくいですが属ごとに巣の形に特徴のあるものが多いため、慣れれば野外でも巣の特徴で属レベルまでおよそ見分けることができます。
下位分類(国産既知種のリスト)
コヒゲナガトビケラ属 Adicella
・(和名未定)Adicella longiramosa Yang & Morse, 2000
・タイワンコヒゲナガトビケラ Adicella makaria Malicky & Chantaramongkol, 2002
・オダミヤマコヒゲナガトビケラ Adicella odamiyamensis Katsuma & Yamamoto, 2015
・ヌマコヒゲナガトビケラ Adicella paludicola Ito & Kuhara, 2013
・チョウモウコヒゲナガトビケラ Adicella strigillata Katsuma & Ito, 2013
・ミツマタコヒゲナガトビケラ Adicella trichotoma Ito & Kuhara, 2013
ツダヒゲナガトビケラ属 Athripsodes
・ツダヒゲナガトビケラ Athripsodes tsudai (Akagi, 1960)
タテヒゲナガトビケラ属 Ceraclea
・トゲモチヒゲナガトビケラ Ceraclea albimacula (Rambur, 1842)
・ナガツノヒゲナガトビケラ Ceraclea complicata (Kobayashi, 1984)
・チョウセンヒゲナガトビケラ Ceraclea coreana Kumanski, 1991
・ヤリヒゲナガトビケラ Ceraclea hastata (Botosaneanu, 1970)
・カモヒゲナガトビケラ Ceraclea kamonis (Tsuda, 1942)
・ミヤコヒゲナガトビケラ Ceraclea lobulata (Martynov, 1935)
・コガタヒゲナガトビケラ Ceraclea mitis (Tsuda, 1942)
・クロスジヒゲナガトビケラ Ceraclea nigronervosa (Retzius, 1783)
・トサカヒゲナガトビケラ Ceraclea superba (Tsuda, 1942)
・シボツタテヒゲナガトビケラ Ceraclea valentinae Arefina, 1997
・アムールヒゲナガトビケラ Ceraclea variabilis (Martynov, 1935)
Erotesis(属和名未定)
・ヨシエヒゲナガトビケラ Erotesis japonica Iwata, 1930
ヒゲナガトビケラ属 Leptocerus
・ビワセトトビケラ Leptocerus biwae (Tsuda, 1942)
・ナガレヒゲナガトビケラ Leptocerus fluminalis Ito & Kuhara, 2009
・モセリーヒゲナガトビケラ Leptocerus moselyi (Martynov, 1935)
・ウトナイヒゲナガトビケラ Leptocerus valvatus (Martynov, 1935)
アオヒゲナガトビケラ属 Mystacides
・アオヒゲナガトビケラ Mystacides azureus (Linnaeus, 1761)
・(和名未定)Mystacides bifidus Martynov, 1924
・(和名未定)Mystacides moritai Kuhara, Nozaki, Zhang & Zhou, 2023
・キタアオヒゲナガトビケラ Mystacides pacificus Mey, 1991
・カワアオヒゲナガトビケラ Mystacides rivularis Kuhara, Nozaki, Zhang & Zhou, 2023
・シベリアアオヒゲナガトビケラ Mystacides sibiricus Martynov, 1935
クサツミトビケラ属 Oecetis
・ウスリークサツミトビケラ Oecetis antennata (Martynov, 1935)
・アジアクサツミトビケラ Oecetis brachyura Yang & Morse, 1997
・アナトゲクサツミトビケラ Oecetis caucula Yang & Morse, 2000
・クサツミトビケラ Oecetis furva Rambur, 1842
・ハモチクサツミトビケラ Oecetis hamochiensis Kobayashi, 1984
・クマンスキークサツミトビケラ Oecetis kumanskii Yang & Morse, 2000
・モリクサツミトビケラ Oecetis morii Tsuda, 1942
・ゴマダラヒゲナガトビケラ Oecetis nigropunctata Ulmer, 1908
・オダクサツミトビケラ Oecetis odanis Kobayashi, 1987
・ヘラクサツミトビケラ Oecetis spatula Chen, 2000
・ミツモンクサツミトビケラ Oecetis tripunctata (Fabricius, 1793)
・トウヨウクサツミトビケラ Oecetis tsudai Fischer, 1970
・ユウキクサツミトビケラ Oecetis yukii Tsuda, 1942
Parasetodes(属和名未定)
・(和名未定)Parasetodes respersellus (Rambur, 1842)
セトトビケラ属 Setodes
・ギンボシツツトビケラ Setodes argentatus Matsumura, 1907
・ヒガシセトトビケラ Setodes chirotheca Katsuma, 2018
・ヒヌマセトトビケラ Setodes hinumaensis Katsuma, 2009
・チビセトトビケラ Setodes minutus Tsuda, 1942
・ニシセトトビケラ Setodes moritai Katsuma, 2018
・ニセフタマタセトトビケラ Setodes pseudofurcatulus Katsuma, 2018
・シラセセトトビケラ Setodes shirasensis Kobayashi, 1984
・ウジセトトビケラ Setodes ujiensis (Akagi, 1960)
センカイトビケラ属 Triaenodes
・ニセセンカイトビケラ Triaenodes pellectus Ulmer, 1908
・チンリンセンカイトビケラ Triaenodes qinglingensis Yang & Morse, 2000
・ヤマモトセンカイトビケラ Triaenodes unanimis McLachlan, 1877
ヒメセトトビケラ属 Trichosetodes
・ヒメセトトビケラ Trichosetodes japonicus Tsuda, 1942
オオヒゲナガトビケラ属 Triplectides
・ミサキツノトビケラ Triplectides misakianus (Matsumura, 1931)
(川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)、 日本産トビケラのリスト (外部リンク/2024年11月閲覧)に基づく)
以上12属56種が知られているほか複数の未記載種も存在しています。国内ではナガレトビケラ科・エグリトビケラ科などと並び種の多様性が高いグループです。
フォトギャラリー
終齢(?)/雌雄不明
2019年(採集月日・産地不詳)
同個体(液浸標本)
――――――【 タテヒゲナガトビケラ属の一種 】――――――
観察した環境:ー(ラベル紛失により採集場所不明) 記録済みの地域:ー 幼虫の特徴:(下の表を参照) 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
齢不詳/雌雄不明
2024.05.01 宮城県
齢不詳/雌雄不明
2024.08.01 福島県
―――【 ヒゲナガトビケラ属たち(それぞれ種は不明)】―――
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:巣材は細粒砂だが、巣の土台の大半は幼虫が吐く絹糸のみで作られている。 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
観察した環境:平地流 記録済みの地域:福島 幼虫の特徴:巣材は虫体からするとかなり大きな細礫で、礫どうしを粗雑につなぎ合わせたもろい巣 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
終齢(?)/雌雄不明
2021.04.15 宮城県
終齢/雌雄不明
2024.04.05 宮城県
同個体(幼虫拡大)
巣形の多様性
(すべて同一産地の個体)
―――――――――――――――――【 アオヒゲナガトビケラ属たち(それぞれ種は不明)】―――――――――――――――――
生息環境:山地渓流~平地流の緩流部(特にツルヨシ帯などの植物群落周辺に多い)。まれに止水域からも見つかる。 記録済みの地域:山形・宮城・福島・新潟 幼虫の特徴:(属の特徴は下の表を参照。これまで観察したものの中には複数種が含まれると推測されるが種レベルの差異はよく分からない。) 季節性・化性:詳細不明だが、春~初秋にかけて断続的にステージ後半の幼虫が採集されるため、少なくとも南東北の低地では年2化している可能性が高い。
終齢(?)/雌雄不明(液浸標本)
2024.08.08 福島県
【 クサツミトビケラ属の一種 】
観察した環境:細流・平地渓流の緩流部 記録済みの地域:宮城・福島 幼虫の特徴:(下の表を参照) 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
齢不詳/雌雄不明
2024.07.30 福島県
齢不詳/雌雄不明
2019.07.07 秋田県
――――【 センカイトビケラ属(それぞれ種は不明)】――――
観察した環境:平地渓流の緩流部 記録済みの地域:福島 幼虫の特徴:(属の特徴は下の表を参照。これまで観察したものの中には複数種が含まれると推測されるが種レベルの差異はよく分からない。) 季節性・化性:詳細不明だが、福島県では同一地点で大小さまざまな サイズのものが採集された。
観察した環境:山地渓流の緩流部 記録済みの地域:秋田 幼虫の特徴:(属の特徴は下の表を参照。これまで観察したものの中には複数種が含まれると推測されるが種レベルの差異はよく分からない。) 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
齢不詳/雌雄不明
2024.12.21 宮城県
【 ヒゲナガトビケラ科の一種 】
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:幼虫形状はアオヒゲナガトビケラ属に似るが、巣の特徴が異なる。詳細不明。 季節性・化性:(種レベルまで同定できていないため割愛)
観察メモ
・種の多様性のみならず形態も非常にさまざまです。属ごとに巣や幼虫に特色があるものが多いため、科ではなく属レベルのほうが覚えやすいです。主要属それぞれの特
徴は下の表のとおりです。
・触角が長いことが科名の由来ですが、トビケラ幼虫の触角自体がきわめて短小なので肉眼では鮮明に観察できません。顕微鏡下でははっきりと見ることができますが、
野外での同定のキーとしては不適であり、巣の形で見分けることが無難です。
・ヒゲナガトビケラ属の一部やセンカイトビケラ属は長く発達した後脚に遊泳毛が生えており、後脚をオールのように使って泳ぐことができます。巣に入ったままで活発
に遊泳することができるケーストビケラはトビケラ全体の中でもかなり例外的です。
・アオヒゲナガトビケラ属やセンカイトビケラ属はエタノールやホルマリン等で固定すると虫体が巣から出てしまうことが多いです。
表:ヒゲナガトビケラ科主要属の巣および幼虫の特徴
本科胸部背面のキチン板配列
赤:前胸、黄:中胸、青:後胸、
ピンク矢印:腹部第一節背面の肉質隆起
触角(センカイトビケラ属)
ヒゲナガトビケラ属・センカイトビケラ属の後脚遊泳毛
(画像はヒゲナガトビケラ属)
ヒゲナガトビケラ属 頭部および中脚先端
中脚跗節はフック状に湾曲します(矢印)
↓
↓
胸部背面(タテヒゲナガトビケラ属)
中胸背面の><形の褐色斑
胸部背面(クサツミトビケラ属)
中胸背面に目立つ褐色斑はありません。