An Artless Riverside 川虫館
【コエグリトビケラ科 Apataniidae】
小型のケーストビケラです。幼虫の形態的特徴が似ているため、以前はエグリトビケラ科に含まれていました。図鑑的には、
①可携巣は定形(=ふにゃふにゃでない)で腹部第1節に肉質隆起がある
②中胸背面は広くキチン板に覆われ、後胸は大部分が膜質で側面に一対のキチン板がある
③触角はごく短小で位置は眼と頭部前縁の中間にある
④中胸背板の中央はへこままい(クロツツトビケラ科との区別点)
⑤大顎に歯が並ばず、巣は小型(せいぜい10 mm程度)で巣材に有機物を用いず、巣の断面形状はかまぼこ型(エグリトビケラ科との区別点)
以上の5点によって他科と区別されます。砂礫で巣を作る中~小型のケーストビケラ慣れるまでややこしいですが、本科の幼虫はほぼ例外なく背腹にゆるく湾曲した、わずかに扁平な尻すぼみの形の巣を作るため慣れれば巣だけでも科レベルの見当がつくようになります。
下位分類(国産既知種のリスト)
イズミコエグリトビケラ属 Allomyia
・ナガエイズミコエグリトビケラ Allomyia acerosa Nishimoto & Kuhara, 2001
・フトトゲイズミコエグリトビケラ Allomyia acicularis Nishimoto & Kuhara, 2001
・フタマタイズミコエグリトビケラ Allomyia bifoliolata Nishimoto & Kuhara, 2001
・カンムリイズミコエグリトビケラ Allomyia coronae Levanidova & Arefina, 1995
・マガリイズミコエグリトビケラ Allomyia curvata Nishimoto & Kuhara, 2001
・イズミコエグリトビケラ Allomyia delicatula Levanidova & Arefina, 1995
・ヒロオイズミコエグリトビケラ Allomyia dilatata Nishimoto & Kuhara, 2001
・ホソミイズミコエグリトビケラ Allomyia gracillima Nishimoto & Kuhara, 2001
・コガタイズミコエグリトビケラ Allomyia pumila Nishimoto & Kuhara, 2001
コエグリトビケラ属 Apatania
・ヒラタコエグリトビケラ Apatania aberrans (Martynov, 1933)
・ビワコエグリトビケラ Apatania biwaensis Nishimoto, 1994
・チョウカイコエグリトビケラ Apatania chokaiensis Kobayashi, 1973
・キタコエグリトビケラ Apatania crassa Schmid, 1953
・イイジマトビケラ Apatania iijimae (Iwata, 1928)
・チシマコエグリトビケラ Apatania insularis Levanidova, 1979
・イシカワコエグリトビケラ Apatania ishikawai Schmid, 1964
・ミヤマトビケラ Apatania kitagamii (Iwata, 1927)
・キョウトコエグリトビケラ Apatania kyotoensis Tsuda, 1939
・モモヤコエグリトビケラ Apatania momoyaensis Kobayashi, 1973
・ニッコウコエグリトビケラ Apatania nikkoensis Tsuda, 1939
・コガタコエグリトビケラ Apatania parvula (Martynov, 1935)
・サハリンコエグリトビケラ Apatania sachalinensis Martynov, 1914
・シラハタコエグリトビケラ Apatania shirahatai Kobayashi, 1973
・ツダコエグリトビケラ Apatania tsudai Schmid, 1954
イワコエグリトビケラ属 Manophylax
・イワコエグリトビケラ Manophylax futabae Nishimoto, 1997
・オモゴイワコエグリトビケラ Manophylax omogoensis Nishimoto, 1997
・キュウシュウイワコエグリトビケラ Manophylax kyushuensis Nishimoto, 2002
クロバネトビケラ属 Moropsyche
・トガリクロバネトビケラ Moropsyche apicalis Kobayashi, 1985
・ヒゴクロバネトビケラ Moropsyche higoana Kobayashi, 1971
・コガタクロバネトビケラ Moropsyche parvissima Schmid, 1954
・クロバネトビケラ Moropsyche parvula Banks, 1906
・トゲクロバネトビケラ Moropsyche spinifera Nishimoto, 1989
・ユガワラクロバネトビケラ Moropsyche yugawarana Kobayashi, 1983
(川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)、 日本産トビケラのリスト (外部リンク/2024年11月閲覧)に基づく)
以上、4属33種が知られています。
フォトギャラリー
終齢/雌雄不明(左:巣・幼虫ともに背面、右:巣・幼虫ともに側面)
2024.09.23 宮城県
終齢/雌雄不明(巣は側面)
2024.07.16 宮城県
亜終齢(?)/雌雄不明(巣は側面)
2024.04.12 宮城県
――――――――――――――――――【 コエグリトビケラ属たち(それぞれ種は不明) 】――――――――――――――――――
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫 の特徴:(種レベルで同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(種レベルで同定できてきないため割愛)
観察した環境:山地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(種レベルで同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(種レベルで同定できてきないため割愛)
観察した環境:湧水から続く細流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(種レベルで同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(種レベルで同定できてきないため割愛)
【 コエグリトビケラ属の一種】
終齢(?)/雌雄不明(巣は側面)
2024.12.01 宮城県
観察した環境:源流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(種レベルで同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(種レベルで同定できてきないため割愛)
【 クロバネトビケラ属の一種】
終齢(?)/雌雄不明(巣は背面)
2024.12.16 宮城県
観察メモ
・幼虫の科の検索の際に『後胸背面に横一列の毛列がある』ことが本科の特徴とさ
れていることがありますが、この特徴はコエグリトビケラ属・クロバネトビケラ
属にしか当てはまらず、この点だけをあてにするとイズミコエグリトビケラ属・
イワコエグリトビケラ属をエグリトビケラ科と誤認してしまうため注意が必要で
す(なお河川で一般的にみられる本科はコエグリトビケラ属かクロバネトビケラ
属である確率がかなり高い)。
・エタノールやホルマリン等に入れても幼虫が巣から飛び出すことはあまりないで
す。巣は強度が高く、幼虫本体も比較的表皮がしっかりしているので、特に工夫
しなくとも保存状態の良い液浸標本となります。
観察した環境:平地流(小河川) 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(種レベルで同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(種レベルで同定できてきないため割愛)
本科胸部背面のキチン板配列
(画像はコエグリトビケラ属)
赤:前胸、黄:中胸、青:後胸
(前蛹へ脱皮する直前のため前胸正中が裂開している)
後胸背面(画像はコエグリトビケラ属)
コエグリトビケラ属・クロバネトビケラ属の後胸背面には
キチン板はなく、横一文字の毛列があります
(青囲みの範囲、毛の本数は齢数や種によって異なる)。
イズミコエグリ属・イワコエグリ属の2属では
毛列のかわりに小さなキチン板があります。
腹部第一節下面(画像はクロバネトビケラ属)
後胸背面の毛列が特徴的なので図鑑等では
記述されませんが、腹部第一節下面の毛列も
なかなか特徴的です。
生息環境(特殊事例)
塔の土台の上面の微小な滞水
生息環境例(山形県/6月)
こんな環境にトビケラが2種も
生息しているとは…。
水辺を卒業した特異な川虫であるイワコエグリトビケラは極端な例ですが、他にも水辺とは呼びがたい微小水域に生息する種を含んでおり、陸生のヤマトビイロトビケラ(エグリトビケラ科)と並んで最も川からかけ離れている川虫のひとつです(普通に川に生息する種もいます)。画像は山形県の温泉街の中にある地下のガス抜き(?)の塔で、数分おきに上部の灰色の部分からガスとともに地下水と思われる水の飛沫が噴出します。塔の下部は飛沫によって常に濡れておりコケが生えていたのですが、塔の土台上面に刻まれた幅2 cm足らずの溝に深さ5 mmほどの水がたまっており(中央画像)、なんとそこに本科の幼虫が複数生息していました(左画像左側/右は同時に見つかったカクスイトビケラ科の一種)。他にも湧き水が地表に湧き出して再びすぐに地下へと浸透する場所にできたほんの小さな水たまり状の水域や山道のトンネルの壁の下に溜まった滞水などで見つけたこともあり、非常にトリッキーな環境嗜好をもつグループといえます。超微小水域には生物の種数が少ないため適応さえできてしまえば生存競争に有利になりますが、一体どうやってそんな環境を見つけ続けながらこれまで何万年も命をつないできたのか、気になります。