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【エグリトビケラ科 Limnephilidae
 

 

​中~大型のトビケラです。可携巣の形状や巣材に科レベルでの一貫性がなく、形態の多様性に富むグループです。図鑑的には、

  ①可携巣は定形(=ふにゃふにゃでない)で腹部第1節に肉質隆起がある

  ②中胸背面は広くキチン板に覆われ、後胸は大部分が膜質で側面に一対のキチン板がある(後胸背面の小さなキチン板の有無は種によって異なる)

  ③触角はごく短小で位置は眼と頭部前縁の中間にある

  ④中胸背板の中央はへこままい(クロツツトビケラ科との区別点)

  ⑤大顎には内歯が発達し、巣材が無機物の場合は巣の断面形状はかまぼこ型ではなく円(コエグリトビケラ科との区別点)

​以上の5点を順番に観察することで同定されます。ただし④・⑤の検索で分岐するクロツツトビケラ科とコエグリトビケラ科の2つは中~小型種群であり科・属ごとにはっきりとした巣の特徴があるので、亜終齢~終齢サイズまで成長した本科の幼虫であれば、慣れれば細部を観察せずとも本科だと分かります。同じく大型になるトビケラ科の一部と紛らわしいことがありますが、エグリトビケラ科の幼虫は中胸背面の全面がキチン板で覆われます。


下位分類(国産既知種のリスト)


 ホタルトビケラ亜科 Dicosmoecinae
  ジョウザンエグリトビケラ属 Dicosmoecus
    ・ジョウザンエグリトビケラ Dicosmoecus jozankeanus (Matsumura, 1931)
  シロフエグリトビケラ属 Ecclisocosmoecus
    ・シロフエグリトビケラ Ecclisocosmoecus spinosus Schmid, 1964
  ハネツツトビケラ属 Ecclisomyia
    ・カムチャッカトビケラ Ecclisomyia kamtshatica (Martynov, 1913)
  ホタルトビケラ属 Nothopsyche
    ・ババホタルトビケラ Nothopsyche longicornis Nakahara, 1914
    ・ヤマトビイロトビケラ Nothopsyche montivaga Nozaki, 1999
    ・トビイロトビケラ Nothopsyche pallipes Banks, 1906
    ・ホタルトビケラ Nothopsyche ruficollis (Ulmer, 1905)
    ・ヒメトビイロトビケラ Nothopsyche speciosa Kobayashi, 1959
    ・ウルマートビイロトビケラ Nothopsyche ulmeri Schmid, 1952
    ・ヤマガタトビイロトビケラ Nothopsyche yamagataensis Kobayashi, 1973

 エグリトビケラ亜科 Limnephilinae
  クロバネエグリトビケラ属 Asynarchus
    ・サハリントビケラ Asynarchus sachalinensis Martynov, 1914
  オツネントビケラ属 Brachypsyche
    ・オツネントビケラ Brachypsyche sibirica (Martynov, 1924)
  ユキエグリトビケラ属 Chilostigma
    ・ユキエグリトビケラ Chilostigma sieboldi McLachlan, 1876
  ナガレエグリトビケラ属 Rivulophilus
    ・ナガレエグリトビケラ Rivulophilus sakaii Nishimoto, Nozaki & Ruiter, 2000
  ユミモントビケラ属 Halesus
    ・ユミモントビケラ Halesus sachalinensis Martynov, 1914
    ・オウシュウユミモントビケラ Halesus tessellatus (Rambur, 1842)
  トビモンエグリトビケラ属 Hydatophylax
    ・トビモンエグリトビケラ Hydatophylax festivus (Navás, 1920)
    ・コイズミトビケラ Hydatophylax koizumii (Iwata, 1928)
    ・ムモンエグリトビケラ Hydatophylax minor Nozaki, 2004
    ・クロモンエグリトビケラ Hydatophylax nigrovittatus (McLachlan, 1872)
    ・エゾクロモントビケラ Hydatophylax variabilis (Martynov, 1910)
  クロズエグリトビケラ属 Lenarchus
    ・クロズエグリトビケラ Lenarchus fuscostramineus Schmid, 1952
  キリバネトビケラ属 Limnephilus
    ・ニセウスバキトビケラ Limnephilus alienus Martynov, 1914
    ・ウスバキトビケラ Limnephilus correptus McLachlan, 1880
    ・ムモンウスバキトビケラ Limnephilus diphyes McLachlan, 1880
    ・セグロトビケラ Limnephilus fuscovittatus Matsumura, 1904
    ・ニッポンウスバキトビケラ Limnephilus nipponicus Schmid, 1964
    ・トウヨウウスバキトビケラ Limnephilus orientalis Martynov, 1935
    ・クモガタウスバキトビケラ Limnephilus ornatulus Schmid, 1965
    ・コガタウスバキトビケラ Limnephilus quadratus Martynov, 1914
    ・エンモンエグリトビケラ Limnephilus sericeus (Say, 1824)
    ・シロフキリバネトビケラ Limnephilus sparsus Curtis, 1834
    ・マエモンウスバキトビケラ Limnephilus stigma Curtis, 1834
  スジトビケラ属 Nemotaulius
    ・エグリトビケラ Nemotaulius admorsus (McLachlan, 1866)
    ・スジトビケラ Nemotaulius brevilinea (McLachlan, 1871)
    ・ミヤケエグリトビケラ Nemotaulius miyakei (Nakahara, 1914)
  アヤトビケラ属 Grammotaulius
    ・アヤトビケラ Grammotaulius ornatus Nakahara, 1914

 オンダケトビケラ亜科 Pseudostenophylacinae
  オンダケトビケラ属 Pseudostenophylax
    ・ベフミヤマトビケラ Pseudostenophylax befui Nozaki, 2013 
    ・ヤマガタミヤマトビケラ Pseudostenophylax dentilus (Kobayashi, 1973)
    ・イマニシトビケラ Pseudostenophylax imanishii (Iwata, 1928) 
    ・イトウミヤマトビケラ Pseudostenophylax itoae Nozaki, 2013 
    ・クハラミヤマトビケラ Pseudostenophylax kuharai Nozaki, 2013 
    ・オンダケトビケラ Pseudostenophylax ondakensis (Iwata, 1928) 
    ・タニダミヤマトビケラ Pseudostenophylax tanidai Nozaki, 2013
    ・トチギミヤマトビケラ Pseudostenophylax tochigiensis Schmid, 1991
    ・トウホクミヤマトビケラ Pseudostenophylax tohokuensis Nozaki, 2013 ​
  川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)、 日本産トビケラのリスト (外部リンク/2024年12月閲覧)基づく)

​以上15属46種が知られています。属・種数ともに多く、国内ではナガレトビケラ科・エグリトビケラ科などと並び種の多様性が高いグループです。属が多いため亜科ごとに分けてリストを整理しました。幼虫の可携巣も巣材・巣形ともに多様で、なかなか覚えるのが大変なグループです。なおアツバエグリトビケラ属(クロツツトビケラ科)やコエグリトビケラ科の各属は従来本科に含まれていましたが、近年は別科として扱うことが主流です。


フォトギャラリー


【ホタルトビケラ亜科
Dicosmoecinae

亜終齢(?)/雌雄不明

​2024.04.13 宮城県

終齢(?)/雌雄不明

​2023.04.23 宮城県

―――――【 ホタルトビケラ or ババホタルトビケラ 】―――――

生息環境:平地~山地に至る、河床に砂礫の多い細流や緩勾配の渓流。低地でもしばしば見つかるが自然度の高い環境を好むため記録は山地に寄る。 記録済みの地域:宮城・茨城 幼虫の特徴: 季節性・化性:成虫は他の昆虫類がほとんど活動しない晩秋~初冬期に出現し活動することが知られる。/1年1世代

終齢/雌雄不明

​2021.05.03 宮城県

【 ヤマガタトビイロトビケラ 】

生息環境:源流・山地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:属の特徴は下の表を参照。同属他種と異なり、腹部第2節前縁部にふさ状のえらを欠く。 季節性・化性:成虫は秋に出現/1年1世代

亜終齢(?)/雌雄不明

​2019.04.12 宮城県

終齢(?)/雌雄不明

​2019.06.01 宮城県

終齢/雌雄不明

​2024.08.01 福島県

終齢/雌雄不明

​2023.04.10 山形県

――――――――――【 ホタルトビケラ属たち(おそらくトビイロトビケラ or ウルマ―トビイロトビケラ)】――――――――――

生息環境:山地渓流の緩流部・平地渓流・平地流(小河川)・自然度の高い水路等 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:属の特徴は下の表を参照。腹部第2節前縁部にふさ状のえら、頭部に明瞭な縦縞がある。トビイロおよびウルマ―トビイロの2種は幼虫の形態では同定できないとされる。 季節性・化性:成虫は秋に出現/1年1世代


【エグリトビケラ亜科
Limnephilinae

(巣のみ)

​2018.12.21 新潟県

亜終齢(?)/雌雄不明

​2020.02.03 新潟県

終齢(?)/雌雄不明

​2024.01.01 山形県

――――――――――――【 キリバネトビケラ属の一種(トウヨウウスバキトビケラまたはその近縁種)】――――――――――――

生息環境:平地~低山地の池・沼や河川のよどみ・水路状の滞水等 記録済みの地域:山形・宮城・新潟 幼虫の特徴:属レベルの識別点は下の表を参照。巣は手近にある植物質を材料とし、多角形に横積みする。 季節性・化性:成虫は初夏~秋に出現するとされる/1年1世代

終齢/雌雄不明

​2021.03.10 山形県

【 キリバネトビケラ属の一種(トウヨウ

ウスバキトビケラまたはその近縁種)】

終齢(?)/雌雄不明

​2024.04.20 山形県

齢不詳/雌雄不明

​2021年04月(採集日・場所不明)

――――――――【 キリバネトビケラ属たち 】――――――――

(それぞれ種は不明)

観察した環境:平地渓流のツルヨシ帯 記録済みの地域:山形 幼虫の特徴:(種レベルで同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(種レベルで同定できてきないため割愛)

(詳細不明)

齢不詳/雌雄不明

​2024.05.24 山形県

齢不詳/雌雄不明

​2024.02.17 山形県

齢不詳/雌雄不明

​2021.02.27 宮城県

――【 エグリトビケラ亜科たち(それぞれ属・種は不明)】――

【 サハリントビケラ(?)】

観察した環境:樹林に囲まれた寒冷地の沼 記録済みの地域:山形 幼虫の特徴:植物枯死組織で作られ、造りはやや粗雑。腹部のえらの分岐は3、塩類上皮は背面第2節と腹面各節にある。(※属の特徴。種レベルの同定キーは確立されていない。) 季節性・化性:観察例は多くないが、成虫は夏~秋に得られている/1年1世代

観察した環境:湧水から続く沈水植生が繁茂する小川 記録済みの地域:山形 幼虫の特徴:(同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(同定できてきないため割愛)

観察した環境:植生の豊富な浅い池 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(同定できてきないため割愛) 季節性・化性:(同定できてきないため割愛)


オンダケトビケラ亜科 Pseudostenophylacinae

終齢(?)/雌雄不明

​2024.09.04 秋田県

終齢(?)/雌雄不明

​2023.04.10 山形県

終齢(?)/雌雄不明

​2023.12.08 宮城県

――――――――――――――【 オンダケトビケラ属たち(それぞれ種は不明)】――――――――――――――

生息環境:山地の清冽な源流・細流。湧水に続く平地の小水路で得たこともある。 記録済みの地域:秋田・山形・宮城 幼虫の特徴:(属レベルの識別点は下の表を参照。種レベルの同定のキーは不明。) 季節性・化性:成虫は主に初夏~秋にみられるという/1~2年1世代(?)


観察メモ
 ・巣材の種類は属や種によってさまざまで、巣から幼虫を引き抜いてはじめて詳細な同定が可能になります。種数も多く、不慣れな人が混乱しやすいグループです。
 ・ホタルトビケラ属やオンダケトビケラ属はトビケラ目の中でも特に大型の部類ですが、幼虫はトビケラ科のように他の生物を捕食することはなく、いかつい外見とは裏
  腹に落葉や水草をかじるベジタリアン(?)です。
 ・液浸標本にした際の破損・退色等はあまり起こらず、特に工夫しなくとも良好な保存状態を保ちやすい川虫です。ただし巣の中に入った状態で長時間固定してしまうと
  腹部のえらが腹部表面に張り付くような形で固まってしまいます。本科において腹部各節のえらの本数は属・種レベルの同定において重要となるため、詳細に同定した
  い場合には固定直後に観察するか、巣から出した状態で幼虫を保存すると良いでしょう。

 

表:エグリトビケラ科 主要各属の特徴

※クロバネエグリトビケラ属・オツネントビケラ属・ユキエグリトビケラ属・ユミモントビケラ属の4属は国内では北海道のみ、クロズエグリトビケラ属・ナガレエグ

 リトビケラ属の2属は北海道および本州の寒冷地のみから記録されています。

※腹部塩類上皮は不明瞭で観察が難しいことが多々あるため、同定形質として積極的に用いたいものではありません。分布情報や巣の形で属・種を絞れるのであれば、

 それに越したことはありません。

本科の基本的な胸部背面のキチン板配列

​(画像は左がキリバネトビケラ属、右はオンダケトビケラ属)

赤:前胸、黄:中胸、青:後胸、ピンク矢印:腹部第一節の肉質隆起。

亜科が異なると外骨格の色や質感等の雰囲気が違うため、一見すると全くの別グループのようです。

腹部の鰓(画像はトビイロトビケラ

またはウルマ―トビイロトビケラ)

トビイロトビケラまたはウルマ―

トビイロトビケラ頭部

トビイロトビケラ類は頭部の斑紋が同定キーと

なるため、顔を撮っておくとよいです。

​キリバネトビケラ属 巣(トウヨウウスバキトビケラまたはその近縁種)

キリバネトビケラ属は巣形の多様性に富みますが、画像のように派手で芸術的な巣を作るものがいます。

幼虫サイズに見合わないほどの大きくて派手な巣はムラサキトビケラに通じる雰囲気がありますが、

ムラサキトビケラと異なり巣は絹糸でかたく綴られていて変形しません。


成虫【準備中…】
 
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