An Artless Riverside 川虫館
【マダラカゲロウ科 Ephemerellidae(1)】
よく発達した厚い外骨格をもつ堅牢なカゲロウで、サイズは種によって小型~大型までさまざまです。触覚は短く、テールは3本あって、テールの長さは体長と同程度~体長の1/2ほどです。図鑑的には、
①頭部前方に突出した大顎がない
②前脚の内側に長い剛毛が密生しない
③複眼が頭部の側面についている
④左右のテールを拡大すると、両側面に短毛が生えている
⑤腹部各節から生えるえらは途中で2本以上に分岐しない
⑥腹部第1節にえらはなく、腹部第2~5節に板状のえらが並ぶ
の6点を順に確認することで同定されますが、ずんぐりとした独特の体型から、野外でもすぐに科レベルまでは判別することができます。種数が多く細かく覚えるには時間を要しますが、慣れれば肉眼で種レベルまで同定可能なものも少なくありません。
下位分類(国産既知種のリスト)
マダラカゲロウ族 Ephemerellinae
トウヨウマダラカゲロウ属 Cincticostella
・チェルノバマダラカゲロウ Cincticostella orientalis (Tshernova, 1952)
・クロマダラカゲロウ Cincticostella nigra (Ueno, 1928)
・オオクママダラカゲロウ Cincticostella elongatula (McLachlan, 1875)
・カスタネアマダラカゲロウ Cincticostella levanidovae (Tshernova, 1952)
トゲマダラカゲロウ属 Drunella
・サトトゲマダラカゲロウ Drunella campicola Ishiwata, 2024
・フタコブマダラカゲロウ Drunella cryptomeria (Imanishi, 1937)
・ムコブトゲマダラカゲロウ Drunella parvicarnivora Ishiwata, 2024
・オオマダラカゲロウ Drunella basalis (lmanishi,1937)
・ヨシノマダラカゲロウ Drunella ishiyamana Matsumura, 1931
・ミツトゲマダラカゲロウ Drunella trispina (Ueno,1928)
・エゾミツトゲマダラカゲロウ Drunella triacantha (Tshernova, 1949)
・コウノマダラカゲロウ Drunella kohnoi (Allen,1971)
・フタマタマダラカゲロウ Drunella sachalinensis (Matsumura, 1931)
マダラカゲロウ属 Ephemerella
・ホソバマダラカゲロウ Ephemerella atagosana Imanishi, 1937
・キタマダラカゲロウ Ephemerella aurivillii (Bengtsson, 1908)
・キマダラカゲロウ Ephemerella notata Eaton,1887
シリナガマダラカゲロウ属 Ephacerella
・シリナガマダラカゲロウ Ephacerella longicaudata (Ueno, 1928)
アカマダラカゲロウ族 Hyrtanellini:【マダラカゲロウ科 Ephemerellidae(2)】で紹介
ヒメマダラカゲロウ属 Serratella
・ツノヒメマダラカゲロウ Serratella tuno Jacobus & McCafferty, 2008
・イマニシヒメマダラカゲロウ Serratella occiprens Jacobus & McCafferty, 2008
・イシワタヒメマダラカゲロウ Serratella ishiwatai (Gose,1985)
・クシゲヒメマダラカゲロウ Serratella setigera (Bajkova,1965)
アカマダラカゲロウ属 Teleganopsis
・アカマダラカゲロウ Teleganopsis punctisetae (Matsumura, 1931)
・チノマダラカゲロウ Teleganopsis chinoi (Gose,1980)
エラブタマダラカゲロウ属 Torleya
・エラブタマダラカゲロウ Torleya japonica (Gose,1980)
・ヤエヤマエラブタマダラカゲロウ Torleya nepalica Kang & Yang, 1995
(日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018);川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)に基づく/一部改変)
以上、7属25種が知られています。ほかにもツノマダラカゲロウ属・ヒメマダラカゲロウ属にはそれぞれ隠蔽種と思われるものが確認されています。たとえばJo&Tojo (2019) は、オオマダラカゲロウとヨシノマダラカゲロウには遺伝的に隔離された2つの集団があることを報告しています。2024年現在、外部形態からそれぞれの種の2集団を見分けることは困難とされますが、将来的には別種として分離する可能性もあります。
参照(外部リンク)
▷ Jaelck & Tojo, 2019. Molecular analyses of the genus Drunella (Ephemeroptera: Ephemerellidae) in the East Asian region
(種数が多く、1ページにまとめると1ページあたりの容量上限を超えてしまうため、本HPでは便宜上、マダラカゲロウ族 Ephemerellinaeとアカマダラカゲロウ族 Hyrtanelliniとでそれぞれ別のページを設けています。)
フォトギャラリー
マダラカゲロウ族 Ephemerellinae -【トウヨウマダラカゲロウ属】
終齢/♀
2020.05.20 山形県
【チェルノバマダラカゲロウ】
生息環境:山地渓流・平地渓流 記録済みの地域:宮城・山形・福島 幼虫の特徴:強い光沢のある黒くずんぐりした体型の幼虫。各脚表面が橙色。テールが短い。 季節性・化性:春に羽化/1年1化
終齢/♂
2019.06.01 宮城県
終齢/♂
2024.05.10 宮城県
終齢/♀
2022.05.04 山形県
―――――――――――――――――【 クロマダラカゲロウ 】―――――――――――――――――
生息環境:源流・山地渓流・平地渓流(まれ) 記録済みの地域:宮城・山形・新潟 幼虫の特徴:属の典型通りの紡錘形の幼虫。色彩多型があるため色や模様で同定するのは危険。オオクママダラカゲロウに酷似するが各脚腿節表面に黒い微小突起が疎生しないこと、テール後半に毛が生えないことで区別できる。 季節性・化性:春の中ごろ~夏に羽化(オオクマより遅い)/1年1化
終齢/♂
2023.02.28 山形県
終齢/♂
2023.02.28 山形県
終齢/♀
2020.02.02 新潟県
終齢/♀
2021.03.10 山形県
―――――――――――――――――――――――【 オオクママダラカゲロウ 】―――――――――――――――――――――――
生息環境:山地渓流・平地渓流・平地流(まれ) 記録済みの地域:岩手・宮城・山形・福島・新潟 幼虫の特徴:属の典型通りの紡錘形の幼虫。色彩多型に富むため色や模様で同定するのは危険。クロマダラカゲロウに似るが各脚腿節表面に棍棒状の微小突起が疎生すること(ただしステージ序盤の幼虫では不明瞭)、テール後半に毛が生えることで区別できる。 季 節性・化性:春に羽化(クロより早い)/1年1化
終齢/♀
2019.03.29 山形県
終齢/♀
2023.04.29 岩手県
終齢(脱皮直後)/♀
2023.02.27 宮城県
亜終齢/♂
2022.02.06 宮城県
―――――――――――――――――――――――【 オオクママダラカゲロウ 】―――――――――――――――――――――――
擬死(チェルノバマダラカゲロウ)
クロ・オオクマのテールの後半部の毛の有無
クロ・オオクマの各脚の腿節表面
クロマダラカゲロウ
腿節表面はなめらか
オオクママダラカゲロウ
観察メモ(トウヨウマダラカゲロウ属)
・チェルノバマダラカゲロウは全個体が黒色で、テールの短いずんぐりとした独特の体型です。色彩多型はありません。
・刺激を加えると体を丸めて脚をたたみ、死んだふりをします。チェルノバマダラカゲロウは特に擬死が解除されるまでの時間が長いです。
・クロとオオクマの2種の幼虫は酷似しており、肉眼で確実に識別することは難しいです。両種ともに色彩多型が豊富で、体色や模様は同定時の参考になりません。各脚
の腿節表面の黒い微小突起とテール後半の長い微毛の有無で識別できます(クロはともに無、オオクマは有)。ただし、クロはオオクマよりも上流寄りに生息してお
り、小型である傾向があり、羽化のピークが1ヵ月ほど遅いため、慣れれば採集環境・幼虫サイズ・採集時期からおおよその見当をつけることができます。
黒い微小突起が散る
【トゲマダラカゲロウ属】
終齢/♂
2024.04.06 山形県
終齢/♂
2024.04.06 山形県
亜終齢/♂
2021.02.27 宮城県
終齢の2つ前(?)/♂
2023.03.11 宮城県
―――――――――――――――――――【 オオマダラカゲロウ(または近縁の隠蔽種)】――――――――――――――――――
生息環境:源流(まれ)・山地渓流・平地渓流・平地流(まれ) 記録済みの地域:岩手・宮城・山形・福島・新潟 幼虫の特徴:(詳細は下の表を参照) 季節性・化性:春の中頃に羽化/1年1化
終齢/♀
2019.04.12 宮城県
終齢/♀
2023.03.11 宮城県
亜終齢/♀
2023.02.28 山形県
亜終齢/♀
2023.02.28 山形県
―――――――――――――――――――【 オオマダラカゲロウ(または近縁の隠蔽種)】――――――――――――――――――
終齢/♂
2019.06.01 宮城県
終齢/♂
2023.05.21 山形県
終齢/♀
2019.06.01 宮城県
終齢/♀
2023.05.21 山形県
―――――――――――――――――――――――【 ミツトゲマダラカゲロウ 】―――――――――――――――――――――――
生息環境:源流(まれ)・山地渓流・平地渓流(まれ) 記録済みの地域:山形・宮城 幼虫の特徴:(詳細は下の表を参照) 季節性・化性:晩春~初夏に羽化/1年1化
終齢/♂
2021.05.20 宮城県
亜終齢/♀
2021.04.11 福島県
――――――――【 コウノマダラカゲロウ(?)】――――――――
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城・福島 幼虫の特徴:(詳細は下の表を参照) 季節性・化性:晩春~初夏に羽化すると思われるが詳細不明/1年1化
終齢/♂
2023.06.08 宮城県
終齢/♂
2024.06.08 宮城県
―――【 ヨシノマダラカゲロウ(または近縁の隠蔽種)】―――
生息環境:山地渓流(まれ)・平地渓流・平地流 記録済みの地域:宮城・山形 幼虫の特徴:(詳細は下の表を参照) 季節性・化性:晩春~初夏に羽化/1年1化
終齢/♀
2024.06.08 宮城県
終齢/♀
2023.06.08 宮城県
齢不詳/雌雄不明
2024.06.08 宮城県
―――――――――――【 ヨシノマダラカゲロウ(または近縁の隠蔽種)】―――――――――――
齢不詳(終齢の2つ前?)/♀
2024.05.10 宮城県
【 フタマタマダラカゲロウ 】
観察した環境:山地渓流・平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(詳細は下の表を参照) 季節性・化性:初夏~盛夏に羽化(属内の中・大型種群の中では最も羽化が遅い)/1年1化
亜終齢/♀(?)
2024.05.26 宮城県
終齢/♂
2019.06.22 宮城県
終齢/♀
2021.05.20 宮城県
亜終齢(?)/♂
2024.05.10 宮城県
【 フタコブマダラカゲロウ 】
――――――――――――――――【 ムコブマダラカゲロウ 】――――――――――――――――
観察した環境:山地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(詳細は下の表を参照) 季節性・化性:晩春~夏に羽化/1年1化
観察した環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:しばらくフタコブマダラカゲロウに酷似した未記載種とされていたが、2024年にめでたく記載された(詳細は下の表を参照)。 季節性・化性:晩春~夏に羽化/1年1化
オオ ミツトゲ
ヨシノ フタマタ フタコブ・ムコブ
フタコブ ムコブ
↓
画像・表:国産トゲマダラカゲロウ属(観察済の7種)の識別
観察メモ(トゲマダラカゲロウ属)
・全種色彩多型が豊富で、体色や模様は同定時の参考になりません。河床の色がカラフルな(=藻類や泥などが少ない)水質のよい河川ほど色彩多型が保存されやすく、
これは河床の礫の色と同じ色の個体ほど捕食者の目から逃れる確率が高いことに基づいていると考えられています。これは色彩多型を有する多くのマダラカゲロウ科の
幼虫に言えることですが、つまりはカラフルな幼虫がみられる河川ほど河床表面を覆う有機物の量が少なく、貧栄養的で水質のよい環境とみなすことができます。
▷ 田村繁明, 加賀谷隆, 加賀谷悦子. 渓流棲カゲロウにおける体色斑の集団内多型,集団間変異,および隠蔽機能(外部リンク)
ヨシノマダラカゲロウは平地渓流の下部寄りに主に産するめ、生息地の河床は泥や付着藻類で一面褐色であることが多いです。よって必然的に地味な色の幼虫だけが生
き残るケースがほとんどで、どこで採集しても地味な色の個体が多いです。
・後期幼虫は明らかな肉食なことで知られており、他の小型川虫などを襲って捕食します。前脚腿節の前縁部にあるトゲは捕食の際に役立ちます。ステージ序盤~中盤の
幼虫や中型~小型種は植物質も食べる雑食だと思われますが、詳しい食性は分かっていません。
・ヨシノ・コウノ・フタマタの3種は互いに似ており、熟練しないと野外ですぐに識別することは難しいです。
【マダラカゲロウ属】
終齢/♂
2022.03.29 宮城県
終齢/♂
2020.04.12 宮城県
終齢/♀(テール全損)
2024.04.26宮城県
亜終齢/♀
2020.03.31 宮城県
―――――――――――――――――――――――【 ホソバマダラカゲロウ 】―――――――――――――――――――――――
生息環境:源流・山地渓流・平地渓流(まれ) 記録済みの地域:岩手・山形・宮城・新潟 幼虫の特徴:やや細長い体型で腹部の側棘・背棘が明瞭。基本的に腹部第2・3・8節に濃色のバンドをもつまだら模様の幼虫だが、3枚目(斑紋縮小型)や4枚目(黒化型)のような個体もまれに見かける。 季節性・化性:春に羽化/1年1化
終齢/♂
2024.04.30(産地未公表)
終齢/♀
2024.04.30(産地未公表)
終齢/♀
2024.04.30(産地未公表)
亜終齢/♀
2024.04.19(産地未公表)
―――――――――――――――――――――――――【 キマダラカゲロウ 】―――――――――――――――――――――――――
生息環境:平地渓流(まれ)・平地流 記録済みの地域:詳細未公表(琵琶湖以西の西日本から散発的に知られる稀種だったが、2024年に新たな地方で発見した。詳細は2025年度末に発表予定。) 幼虫の特徴:黄色で、複雑な淡褐色の模様が散る。前胸背面に2対の黒褐色斑がある個体が多いが、この黒褐色斑が薄い個体(4枚目)や全身暗色の個体(3枚目)も少なからずいる。腹部背面は各節後縁部が棘状に後方に突出する(えらに隠れて見づらいことも多い)。扁平で、マダラカゲロウ科の中では非常に例外的に 、脚をたたみ体を背腹に波打たせてしっかりと泳ぐことができる。 季節性・化性:春~初夏に羽化/1年1化
終齢/♂
2022.05.04 山形県
終齢/♀
2020.03.31 宮城県
終齢/♀
2022.05.04 山形県
終齢/♀
2022.05.04 山形県
――――――――――――――――――――――――【 キタマダラカゲロウ 】――――――――――――――――――――――――
生息環境:源流・山地渓流(雪解け水や地下水に由来する冷涼な沢を特に好む) 記録済みの地域:山形・宮城 幼虫の特徴:やや細長い体型で腹部の側棘・背棘が明瞭。体色の濃淡には個体差が大きい。 季節性・化性:春~夏に羽化/1年1化
観察メモ(マダラカゲロウ属)
・マダラカゲロウ科としてはスリムな体型で、体長の7割ほどの長さのテールには微毛が密生します。
・体色の濃淡や細かい模様の配置には個体差がありますが、基本的な体斑のパターンは決まっています。トウヨウマダラカゲロウ属やトゲマダラカゲロウ属ほどの自由自
在な色彩多型はありません。
・キタマダラカゲロウ・ホソバマダラカゲロウは国産マダラカゲロウ科の中で最も上流寄りの環境を好んでおり、源流~山地渓流域で主に観察されます。一方でキマダラ
カゲロウは平地流で見つかっています。キマダラカゲロウは体色が似たシリナガマダラカゲロウと混生することが多く、野外ではやや紛らわしいです。
・ほとんどのマダラカゲロウが河床の礫間を生活の場とするなか、本属は礫間のほか、水中の蘚苔類の中に好んで潜り込んだり岸辺の植生群落の中に潜んだりする習性が
あります。内壁にコケがびっしりと生えた沢水を引いているU字溝に大量のホソバマダラカゲロウが生息しているのを観察したこともあります。
・ホソバマダラカゲロウはヒメマダラカゲロウ属、キタマダラカゲロウはオオクママダラカゲロウに似ていますが、テールの縞模様の有無によってそれぞれ楽に識別可能
です。
【シリナガマダラカゲロウ属】
観察メモ(シリナガマダラカゲロウ属)
・体中に細かい毛が多く生えており、自然下ではよく泥などが付着しています。
・体長と同程度の長いテールをもちます。
・体色の濃淡には多少の個体差がありますが、基本的に褐色の斑模様で、トゲマダ
ラカゲロウ属やトウヨウマダラカゲロウ属などにみられる顕著な色彩多型はあり
ません。
・腹部のえらは体サイズに対して大きく、溶存酸素レベルの低い水域に適応してい
ます。河川の本体だけでなく、川のサイドプール、あるいは湖・ダムで発生する
事例もあります。
・ほとんどのマダラカゲロウが河床の礫間を生活の場とする一方、本種は植物組織
の中(岸辺の植生の沈水部分など)に紛れていることが多く、河床が根固めされ
た三面護岸の環境でも発生できます。
終齢/♀
2021.03.20 宮城県
終齢/♀
2024.12.21 宮城県
――――――――【 シリナガマダラカゲロウ 】――――――――
生息環境:山地渓流(△)・平地渓流・平地流 記録済みの地域:宮城・山形・福島・新潟・東京 幼虫の特徴:毛深く大型。後胸側面前方に明瞭な突起をもつ。 季節性・化性:春に羽化/1年1化