An Artless Riverside 川虫館
【フタオカゲロウ科 Siphlonuridae】
大型のカゲロウで、細長い体型です。特に科内最大種のオオフタオカゲロウは大型個体では20 mm(終齢、触覚・テールを除く)を超すものもおり、モンカゲロウやガガンボカゲロウなどと並び国内最大級のカゲロウです。
①ツノ状に発達した大顎が頭部前方に突出しない
②前脚の内側に長い剛毛が密生しない
③複眼が頭部の側面についている
④左右のテールの外側には毛が生えていない
⑤腹部第1・2節に2対、第3~7節に1対ずつの大きな葉状のえらがある
(若齢~中齢期は特に)ヒメフタオカゲロウ科やチラカゲロウ科と紛らわしく、すぐに見分けられるようになるには若干の経験を要します。
下位分類(国産既知種のリスト)
フタオカゲロウ属 Siphlonurus
・オオフタオカゲロウ Siphlonurus binotatus (Eaton ,1892)
・ナミフタオカゲロウ Siphlonurus sanukensis Takahashi,1929
・ヨシノフタオカゲロウ Siphlonurus yoshinoensis Gose,1979b
・エゾフタオカゲロウ Siphlonurus zhelochovtsevi Tshernova ,1952
(日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018)に基づく)
以上、1属4種が知られています(エゾフタオカゲロウは幼虫のみの記録で正体不明とされる)。
フォトギャラリー
終齢/♂
2023.04.23 宮城県
(腹部斑紋変異個体)
終齢の2つ前(?)/♂
2022.06.11 宮城県
終齢/♀
2020.05.02 山形県
(腹部斑紋変異個体)
亜終齢(?)/♀
2020.05.09 宮城県
――――――― ―――――――――――――――――【 オオフタオカゲロウ 】――――――――――――――――――――――――
生息環境:山地渓流(まれ)・平地渓流(本流およびサイドプール)・平地流・渓流が流れ込む池や沼 記録済みの地域:宮城・山形・新潟 幼虫の特徴:(同属他種との識別は下の画像を参照) 季節性・化性:春の中ごろ~夏に比較的集中的に羽化/1年1化
終齢/♀
2021.04.22 宮城県
(腹部斑紋変 異個体)
亜終齢/♂
2021.04.22 宮城県
―――――――――【ナミフタオカゲロウ】―――――――――
生息環境:山地渓流・平地渓流(本流およびサイドプール)・細流(低標高部) 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(同属他種との識別は下の画像を参照) 季節性・化性:春の中ごろ~初夏に比較的集中的に羽化/1年1化
亜終齢/♂
2021.04.22 宮城県
終齢/♀
2020.06.09 宮城県
――――――――【 ヨシノフタオカゲロウ 】――――――――
観察した環境:山地渓流・平地渓流(本流およびサイドプール) 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(同属他種との識別は下の画像を参照) 季節性・化性:春の中ごろ~初夏に比較的集中的に羽化/1年1化
観察メモ
・ヨシノフタオ→ナミフタオ→オオフタオの順にやや大柄ですが、同一種内でもステージ後半の♀は同齢の♂の1.1~1.3倍ほどの大きさがあります。しかしサイズは個体
差もあるため、野外で単体を見ただけでは識別が難しいことも多々あります。
・ステージ後半の♂幼虫の複眼は♀幼虫の複眼より大きく、左右の複眼の間の距離を測ることで雌雄を判別できますが、複眼サイズの性差は他の多くのカゲロウに比べる
と顕著ではなく、慣れても雌雄判定に迷うこともあります。
・幼虫の種同定には上に示した腹部側棘と腹部下面の模様の違いが有効ですが、ステージ序盤~中盤のものや中間的な特徴を持っていて判断に迷うような個体は属レベル
で同定を止めておいたほうが無難です。過去には腹部背面に細かい樹枝状の黒斑があることがオオフタオの特徴とされていましたが(御勢,1979)、他種にもこの斑紋
が出ることがあり後に同定のキーとして不適であることが分かりました。なお、羽化が近い終齢の♂は成虫の把持器の原器が透けて見えるため、その形状を精査するこ
とで種同定ができます。
・体は基本的に黄褐色で斑紋の多型はみられませんが、白や黒・朱色の模様が特定の体節に現れる個体が一定数出現します(画像の「腹部斑紋変異個体」を参照)。
・泳ぎがうまく、刺激を加えると体を上下にくねらせて小魚のように直線的に泳ぎます。
・エタノールやホルマリンで固定するとえらやテールが非常に脱落しやすくなってしまいます。
横(オオフタオカゲロウ)
茹でキャベツを食べる幼虫たち(オオフタオカゲロウ/飼育下)
画像・表:日本本土に広く生息するフタオカゲロウ属3種の識別
生息環境
生息環境例(宮城県/5月)
サイドプールに密集する幼虫たち
河川や河川と接続している止水域でも広くみられますが、本科の幼虫が利用する環境で特徴的なものは画像のような河川のサイドプールです(左画像のものは平地渓流の本流から切り離されたサイドプールで、本流は画像手前の画角外)。春季に一時的な増水が起こったりしてできるこのような環境は水温が高く(≒エサとなる糸状藻類の増殖速度が大きい)、天敵となる大型の魚などが存在しにくいこともあって本科の幼虫が高密度でひしめいていることがあります。好天が続くとすぐに干上がってしまう不安定な環境ではありますが、早春~晩春にかけて急速に成長して羽化する本科の生態はこのような環境を利用するのに都合がよいと考えられます。