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An Artless Riverside 川虫館
【トワダカワゲラ科 Scopuridae】
大型のカワゲラで、腹部先端にテールをとりまくように環状に糸状のえらが生えていることで他科と容易に識別できます。
幼・成虫ともに全身の外骨格のキチン化が進んでおり、まるで甲冑を着ているようです。成虫は翅をもたず、成虫の姿は幼虫の面影を強く残します。カワゲラは他の昆虫と比べて無翅の種を含む科が多いですが、無翅の種のみで構成される科は本科のみです。また、カワゲラは小型種が植食~雑食、中・大型種が肉食という明確な傾向がありますが、トワダカワゲラの仲間は大型にもかかわらずデトリタスを好む雑食で、この点も特異です。
氷河期からその姿を変えていない 『生きた化石』 としても知られます。
下位分類(国産既知種のリスト)
トワダカワゲラ属 Scopura
・トワダカワゲラ Scopura longa Ueno, 1935
・ミネトワダカワゲラ Scopura montana Maruyama, 1987
・フタカギトワダカワゲラ Scopura bihamulata Uchida, 1987
・ヨツカギトワダカワゲラ Scopura quattuorhamulata Uchida, 1987
(日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018)に基づく)
以上、1属4種が知られています。トワダカワゲラ科はトワダカワゲラ属のみからなる小さな科で、日本に4種、朝鮮半島に4種の計8種が見つかっています。
フォトギャラリー
観察メモ
・脚が短くずんぐりした体型の愛嬌のある幼虫で、他のカワゲラと違い機敏な動きをしません。
・腹部先端のえらは、刺激を加えると一時的に体内へ引っ込みます。このえらは腹部の末節(第10節)の後縁部にあるように見
えますが、実は末節に見えているのは第9節で、えらは第9節と第10節の間から生えています。えらを引っ込める動作は第9節の
内側に第10節を引っ込めることで起こります。
・各種きわめて似ており、幼虫は♂でのみ形態を用いた種同定が可能とされます(幼虫を固定・解剖したうえでテール基部にある
肛上板の形状を顕微鏡で見る必要があります)。ただし分布域が種ごとに決まっているため、分布境界の地域を除けば、記録地
点から種を絞ることは可能です。
・液浸標本にすると生時の外観が大きく損なわれることが多い川虫ですが、その中では比較的きれいな標本を作ることができるカ
ワゲラです。もともと体色が地味なことと丈夫な外骨格で全身が覆われていることが功を奏します。
齢不詳/雌雄不明
2020.03.31 宮城県
【 トワダカワゲラ 】
生息環境:細流(水温が低い環境)・源流・山地渓流(まれ) 記録済みの地域:山形・宮城・福島・新潟 幼虫の特徴:(下の解説を参照) 季節性・化性:晩夏~秋に羽化/2~3年1化
横(トワダカワゲラ)
見た目・動き方ともに可愛らしい、筆者の推しカワゲラの
ひとつです。腹端のえらもチャーミングです。
↑
腹部下面(トワダカワゲラ)
左:♀(種同定不能)
右:第8節に生殖溝の原器(矢印)があるため♂(種同定可能)
腹端(トワダカワゲラ)
左:平常時
右:刺激を加えられてえらを引っ込めたところ
♂の肛上板(赤枠)。この半透明の板状の組織の形状が種ごとに異なります。きれいな画像が手元にないため、撮影出来次第更新します。
生息環境
トワダカワゲラの環境嗜好を満たす沢は視覚的に分かりやすいため、慣れてくると「いそうだな…」となんとなく察知できるようになります。また、トワダカワゲラが好む沢は他の源流性の生物にとっても居心地がいいようで、ハコネサンショウウオ類・ムカシトンボなどが同所的に生息する生き物として頻出です。生涯飛べないため分散性は相当に低そうですが、それでもまだ多くの産地が残っているため、もっと地球が寒冷だった時代(最終氷期)には日本の広い範囲に面的に分布しており、個体群同士の活発な遺伝子交流があったと推測されます。
成虫の姿をいつか見てみたいのですが、成虫は本腰をいれて探したことがまだなく、観察できていません。今後の課題です。
生息環境例(宮城県/12月)
成虫(未観察)
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