An Artless Riverside 川虫館
【チラカゲロウ科 lsonychiidae】
やや大型のカゲロウで、縦長の体型です。
①ツノ状に発達した大顎が頭部前方に突出しない
②前脚各節の内側にブラシ状の長い剛毛が並ぶ
の2点で他科のカゲロウから識別されます。テールは3本で、腹部各節にはふさ状のえらと葉状のえらの両方がついています。体は赤褐色で、国内種に関しては体背面を一本の明色条が走るのも特徴です(少数ですが海外種には明色条がないものもいます)。体型はフタオカゲロウ科やヒメフタオカゲロウ科に似ていますが、慣れれば野外でもすぐに同定できるようになります。
下位分類(国産既知種のリスト)
チラカゲロウ属 Isonychia
・チラカゲロウ Isonychia japonica (Ulmer, 1919)
・シマチラカゲロウ Isonychia shima (Matsumura, 1931)
・ナバスチラカゲロウ Isonychia valida (Navas, 1919)第二犯
(日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018);川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)に基づく)
チラカゲロウ属のみでチラカゲロウ科を構成し、国内からは上の3種が知られています(ただしナバスチラカゲロウは情報不足で正体不明、日本産水生昆虫 第二版 では無効な種名として削除され国産種は2種とされています)。チラカゲロウ属はヒトリガカゲロウ科に含まれることもありますが、本HPでは近年の風潮に従い独立科として扱います。
フォトギャラリー
観察メモ
・♀は同齢の♂よりもやや大きいですが、幼虫の形態に雌雄差はほとんどありませ
ん。
・泳ぎはうまく、刺激を加えると体全体を上下にくねらせて小魚のように直線的に
泳ぎます。
・酸欠にやや弱く、溶存酸素レベルの低い水中では弱ってしまいます。
・脱皮直後は全身ピンク色で、初めて見ると驚きます。脱皮から時間が経つにつれ
てピンク→黄色→暗い赤褐色 へと変化します。野外では色の薄い個体から濃い
個体までさまざま採集されますが、体色の濃淡は個体差ではなく脱皮からの日数
による違いが大きいと思われます。
・チラカゲロウは前脚の基部(前胸下面)にふさ状のえらがあります。シマチラカ
ゲロウ(幼虫は未観察)では、これが単純な棒状です。
・エタノールやホルマリンで固定すると腹部のえらがポロポロととれてしまうこと
が多いです。
終齢/雌雄不明
2024.05.08 宮城県
終齢の2つ前/雌雄不明
2024.04.05 宮城県
――――――――――【 チラカゲロウ 】――――――――――
生息環境:山地渓流(主に西日本)・平地渓流・平地流 記録済みの地域:岩手・山形・宮城・新潟 幼虫の特徴:正中線上に明瞭な淡黄色条が走る。前脚内側にブラシ状の長毛が生える。 季節性・化性:晩春~秋に羽化/1年1~2化
↑
前胸部下面、前脚の基部にあるふさ状のえら
前脚に生えるブラシ状の剛毛
脱皮直後の幼虫
生息環境
生息環境例(宮城県/4月)
小河川から大河まで広く生息するチラカゲロウですが、東日本の主な生息河川は勾配の緩い土地を流れる平地渓流ないし平地流(左画像のぐらいのイメージ)です。しかし西日本ではチラカゲロウは上流から下流まで広くみられるといい、上流に適応しているものは中流~下流に広く生息するものと遺伝的に異なっているようだ、という話があります。同種の中で異なる2つの系統がすみわけを図っているのは面白い現象で、進化生物学的に考察すると、この2系統の存在はチラカゲロウという一種の生物がまさに2種に分化しようとしていることを示唆しているともいえます。
長く東日本に住んでいる身からすると山地渓流にチラカゲロウが多産するイメージはあまりないため、この話を初めて読んだ時は驚きました。西日本を訪問した際には、東日本にはいない川虫だけでなくチラカゲロウにも目を向けたいところです。
▷ 斎藤・東城幸治, 2016. ハビタットジェネラリスト種・チラカゲロウ種内におい
て検出された日本列島内2遺伝系統群の分布とそのハビタット選択性
(外部リンク)