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カワゲラ科 Perlidae
 

​小型~大型種まで形態の多様性に富んだカワゲラです。属ごとに外部形態がさまざまですが、各脚の基部から糸状(文献によっては「ふさ状」)のえらが生えていることで他科のカワゲラと区別することができます。中・大型種を中心に胸部背面に古代文字のような複雑で美しい体斑をもつ種が多く、とっつきやすいかっこよさや美しさを兼ね備えたグループです。属・種ごとに同定形質がよく判明しており一部の属を除いて幼虫時点から種まで同定可能なので、カワゲラ入門に最適のグループでもあります。


下位分類(国産既知種のリスト)


カワゲラ亜科 Perlinae
  オオヤマカワゲラ属 Oyamia
    
・ニシオオヤマカワゲラ Oyamia cryptomeria Isobe & Uchida, 2009
    
・オオヤマカワゲラ Oyamia lugubris (McLachlan, 1875)
    
・ヒメオオヤマカワゲラ Oyamia seminigra Klapálek, 1907
  コカワゲラ属 Miniperla
    
・コカワゲラ Miniperla japonica Kawai, 1967
  カミムラカワゲラ属 Kamimuria
    ・クロヒゲカワゲラ Kamimuria quadrata (Klapálek, 1907)
    ・カミムラカワゲラ Kamimuria tibialis (Pictet, 1841)
    ・ウエノカワゲラ Kamimuria uenoi Kohno, 1947
  クラカケカワゲラ属 Paragnetina
    ・オオクラカケカワゲラ Paragnetina tinctipennis (McLachlan, 1875)
    ・ヒトホシクラカケカワゲラ Paragnetina japonica (Okamoto, 1912)
    ・スズキクラカケカワゲラ Paragnetina suzukii (Okamoto, 1912)
  トウゴウカワゲラ属 Togoperla
    ・トウゴウカワゲラ(=キベリトウゴウカワゲラ) Togoperla limbata (Pictet, 1841)
  ミナミカワゲラ属 Tyloperla
    ・(未記載につき和名未定)Tyloperla sp.
  フタツメカワゲラ属 Neoperla
    ・タイワンフタツメカワゲラ Neoperla formosana Okamoto, 1912
    ・フタツメカワゲラ Neoperla geniculata (Pictet, 1841)
    ・ヒメフタツメカワゲラ Neoperla geniculatella Okamoto, 1912
    ・クロフタツメカワゲラ Neoperla hatakeyamae Okamoto, 1912
    ・ヤマトフタツメカワゲラ Neoperla niponensis (McLachlan, 1875)

​モンカワゲラ亜科 Acroneuriinae
  モンカワゲラ属 Calineuria
    ・フトオモンカワゲラ Calineuria crassicauda Uchida, 1983
    ・ミツモンカワゲラ Calineuria jezoensis Okamoto, 1912
    ・モンカワゲラ Calineuria stigmatica (Klapálek, 1907)
  キカワゲラ属 Xanthoneuria
    ・キクロカワゲラ Xanthoneuria bolivari (Klapálek, 1907)
    ・キカワゲラ Xanthoneuria fulva (Klapálek, 1907)
    ・ヨウクルカワゲラ(=ジョウクリカワゲラ)Xanthoneuria jouklii (Klapálek, 1907)
  ヤマトカワゲラ属 Niponiella
    ・ヤマトカワゲラ Niponiella limbatella Klapalek, 1907
  エダオカワゲラ属 Caroperla
    ・エダオカワゲラ(=キベリエダオカワゲラ)Caroperla pacifica Kohno, 1946
  ニシカワゲラ属 Sinacroneuria
    ・ニシカワゲラ Sinacroneuria acuticornis Uchida, 2017
  キコナガカワゲラ属 Flavoperla
    ・キアシコナガカワゲラ Flavoperla hagiensis (Okamoto, 1912)
    ・キコナガカワゲラ Flavoperla hatakeyamae (Okamoto, 1912)
    ・(和名未定)Flavoperla okamotoi (Zhiltzova, 1979)
    ・オオメコナガカワゲラ Flavoperla thoracica (Okamoto, 1912)
    ・(和名未定)Flavoperla tobei (Okamoto, 1912)
  ヒメナガカワゲラ属 Gibosia
    ・ヒメナガカワゲラ Gibosia angusta (Klapálek, 1907)
  ナガカワゲラ属 Kiotina
    ・ナガカワゲラ Kiotina pictetii (Klapálek, 1907)
    ・リュウキュウナガカワゲラ Kiotina riukiensis Uéno, 1938
    ・クロナガカワゲラ Kiotina suzukii Okamoto, 1912
  (日本産水生昆虫 第二版(川合・谷田 編,2018);川虫図鑑 成虫編(丸山・花田 編,2016)に基づく)

​以上、15属35種が知られているほか、複数の属から未記載種も確認されています。なおニシカワゲラは2017年に記載された新しい種で、ミナミカワゲラ属は未記載と思われるものが沖縄本島から得られているのみでほとんど認知されていません。コカワゲラは過去に2府県から3例のみが報告されており近年は全く見つかっていない幻のカワゲラです。

 


フォトギャラリー

 

【カワゲラ亜科 Perlinae】

亜終齢(?)/♂

2024.04.13 宮城県

齢不詳/雌雄不明

2019.12.21 宮城県

―――――――――【 オオヤマカワゲラ 】―――――――――

生息環境:源流・山地渓流・平地渓流 記録済みの地域:岩手・山形・宮城・新潟 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:初夏に羽化/2~3年1化

終齢/雌雄不明

2021.04.11 福島県

亜終齢(?)/雌雄不明

2019.12.21 宮城県

――――――――――【 ウエノカワゲラ 】――――――――――

生息環境:源流・山地渓流(クロヒゲカワゲラと混生する場合はクロヒゲより下流寄り) 記録済みの地域:岩手・山形・宮城・福島・新潟・東京・愛知 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:晩春に羽化/1年1化

​終齢/雌雄不明(羽化前)

2022.05.10 宮城県

亜終齢/雌雄不明

2019.12.21 宮城県

―――――――――【 カミムラカワゲラ 】―――――――――

生息環境:山地渓流・平地渓流 記録済みの地域:山形・宮城・福島・新潟 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:初夏に羽化/1年1化

終齢の2つ前(?)/雌雄不明

2022.05.24 宮城県

齢不詳/雌雄不明

2023.02.27 宮城県

―――――――――【 クロヒゲカワゲラ 】―――――――――

生息環境:源流・山地渓流(ウエノカワゲラと混生する場合はウエノより上流寄り) 記録済みの地域:山形・宮城・福島・新潟 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:夏に羽化/1~2年1化(ほとんど1年1化だが一部が成長に2年を要すると考えられている)

終齢の2つ前(?)/雌雄不明

2020.12.19 宮城県

齢不詳/雌雄不明(斑紋縮小個体)

2021.02.27 宮城県

――――――――【 オオクラカケカワゲラ 】――――――――

生息環境:山地渓流・平地渓流(まれ) 記録済みの地域:山形・宮城 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:夏~初秋に羽化/2年1化程度(一部3年1化?)

亜終齢/雌雄不明

2024.03.24 宮城県

齢不詳/雌雄不明

2021.05.20 宮城県

―――――――【 ヒトホシクラカケカワゲラ 】―――――――

生息環境:平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:夏に羽化/1年1化(羽化までに2年かかる個体もいる可能性あり)

終齢の2つ前(?)/雌雄不明

2024.10.14 新潟県

亜終齢/雌雄不明(液浸標本)

2019.01.15 新潟県

―――――――【 スズキクラカケカワゲラ 】――――――――

生息環境:山地渓流・平地渓流 記録済みの地域:新潟 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:夏~初秋に羽化/2年1化程度

齢不詳/♀

2024.01.28 東京都

【 トウゴウカワゲラ 】

生息環境:源流・山地渓流 記録済みの地域:新潟?(※)・東京(※:日本海側の東限は富山とされているが新潟県下越地方で本種の可能性が高い若齢幼虫を1頭得たことがある) 幼虫の特徴:(下の表・解説を参照) 季節性・化性:晩春~初夏に羽化/2年1化程度(一部3年1化?)

亜終齢/雌雄不明

2024.03.24 宮城県(採集環境:源流)

【 フタツメカワゲラ属の一種 】

生息環境:源流・山地渓流・平地渓流・平地流(属自体はきわめて広範な流水環境に適応している。種によって好む流程が異なると思われるが詳細不明。) 記録済みの地域:(種レベルで同定できていないため割愛) 幼虫の特徴:単眼が2つしかないことで同亜科の他属から容易に区別できるが、種レベルの同定は困難。 季節性・化性:春~秋に羽化/ほとんどの種が1年1化と思われるが詳細不明

齢不詳/雌雄不明

2022.12.23 宮城県​​(採集環境:山地渓流)

終齢の2つ前(?)/雌雄不明

2023.01.24 山形県​​(採集環境:山地渓流)

齢不詳/雌雄不明2023.01.24

宮城県(採集環境:山地渓流)

齢不詳/雌雄不明

2021.03.20 宮城県​​(採集環境:平地流)

終齢/雌雄不明

2020.06.10 宮城県(採集環境:平地渓流)​

――――――――――――――――――【 フタツメカワゲラ属たち(それぞれ種は不明)】――――――――――――――――――

亜終齢/雌雄不明

2019.03.12 鹿児島県 奄美大島​

(採集環境:源流)

終齢/雌雄不明

2019.03.12 鹿児島県 奄美大島​​

(採集環境:源流)

終齢/雌雄不明(羽化直前)

2024.06.27 宮城県(採集環境:平地渓流)​

――――――――――――――――――【 フタツメカワゲラ属たち(それぞれ種は不明)】――――――――――――――――――


観察メモ​(カワゲラ亜科 Perlinae)
 ・中~大型種群で、国産のほとんどの種(フタツメカワゲラ属以外)は終齢幼虫で20 mmを超えます。とりわけ大型になるオオヤマカワゲラ属・クラカケカワゲラ属など
  は終齢時に40 mmに迫るものもいます。
 ・頭部背面後方を横断する隆起線があることでモンカワゲラ亜科と区別されます。
 ・種によって汚濁への耐性はさまざまで、例えばクラカケカワゲラ属は有機汚濁の少ない清冽な河川に多い反面、フタツメカワゲラ属の一部やカミムラカワゲラなどは生
  活排水などが流れ込む都市河川でもみることができます。呼吸器官(糸状のえら)が発達しているためか他の川虫と比べると比較的酸欠に強いです。溶存酸素レベルの
  低い水中だと腕立て伏せのような動きをして体のまわりに水流を発生させ、呼吸量を確保しようとします。
 ・フタツメカワゲラ属を除き種レベルまでよく分類されていますが、オオヤマカワゲラ属・カミムラカワゲラ属・トウゴウカワゲラ属などは互いによく似ているため、慣
  れないと見分けが難しいです。属レベルの検索は下の表を参照。

 

​表:国産カワゲラ亜科の各属の特徴

 

​画像:カワゲラ亜科の識別が難しい種群の同定ポイントなど

​オオヤマカワゲラ属          トウゴウカワゲラ属

頭部中央やや後方、左右の単眼の間の

三角形の淡色斑が特徴的です。

​(左右の淡色斑とつながる個体もいます)

斑紋パターンはオオヤマカワゲラに似ますが

体色が淡く、左右の単眼の間に

三角形の淡色斑はありません​。

​カミムラカワゲラ           ウエノカワゲラ           クロヒゲカワゲラ

​↑            ↑                  ↑

生殖溝の原器       生殖溝の原器           生殖溝の原器

​  刺毛の範囲           刺毛の範囲         刺毛の範囲

​__________          _______     ___________

頭部前方のM字斑と前胸の

古代文字のような斑紋は明瞭です​。

(ウエノと迷う個体もいます)

腹部第8節下面後縁部の刺毛列は

​側面から中央(生殖溝原器)まで完全です。

頭部の斑紋は不明瞭で、前胸の

古代文字のような斑紋は明瞭​な個体が多いです。

​(カミムラ・クロヒゲと迷う個体もいます)

腹部第8節下面後縁部の刺毛列は

​外側1/2ほどで途切れます。

頭部と前胸の斑紋は不明瞭​で、

前胸は広く黒褐色な個体が多いです。

​(ウエノと迷う個体もいます)

腹部第8節下面後縁部の刺毛列は

​側面から中央(生殖溝原器)まで完全です。

​オオクラカケカワゲラ        ヒトホシクラカケカワゲラ       スズキクラカケカワゲラ

腹部第8~10節背面は

​似たような模様です

腹部第8~10節背面に明瞭な暗色斑が並び、

​第10節前縁は広く暗色です。

腹部第8・9節背面には明瞭な暗色斑がなく、

​第10節には暗色斑があります。


モンカワゲラ亜科 Acroneuriinae

終齢/♀

2022.05.04 山形県​

終齢/♂

2023.04.29 岩手県​

終齢の2つ前(?)/雌雄不明

2023.11.25 山形県​

齢不詳/雌雄不明

2022.04.02 宮城県​

―――――――――――――――――――【 モンカワゲラ属の一種(それぞれ種は不明)】―――――――――――――――――――

生息環境:山地渓流(寒冷地にやや偏る) 記録済みの地域:(種レベルで同定できていないため割愛) 幼虫の特徴:モンカワゲラ亜科よりもカワゲラ亜科の諸種に似るが、頭部後方に横隆起がない。各種の幼虫が明らかにされておらず、種レベルの同定は困難。 季節性・化性:春~初夏に羽化/2~3年1化

終齢/雌雄不明

2024.03.16 山形県

亜終齢/雌雄不明

2021.03.06 宮城県

――【 キカワゲラ属の一種(おそらくジョウクリカワゲラ)】――

生息環境:山地渓流(有機汚濁レベルのきわめて低い自然度の高い渓流を好む) 記録済みの地域:コントラストの強いモノクロの体色。胸部背面の模様は比較的シンプル。種によって腹部の斑紋パターンが異なるが、幼虫・成虫の紐付けが不十分であり幼虫時点での確実な種同定は困難。 幼虫の特徴:単眼が2つしかないことで同亜科の他属から容易に区別できるが、種レベルの同定は困難。 季節性・化性:春~夏に羽化/2~3年1化

終齢/雌雄不明

2022.04.30 宮城県​

齢不詳/雌雄不明

2024.03.16 山形県​

――――――――――【 ヤマトカワゲラ 】――――――――――

生息環境:細流・源流・山地渓流(まれ) 記録済みの地域:岩手・山形・宮城・福島・新潟 幼虫の特徴:全身オレンジ色で無斑(エダオカワゲラ属との識別は下の画像を参照)。 季節性・化性:晩春~夏に羽化/2~3年1化

齢不詳/雌雄不明

2021.05.20 宮城県​

【 エダオカワゲラ(?)】

生息環境:山地渓流・平地渓流 記録済みの地域:宮城 幼虫の特徴:全身オレンジ色で無斑(ヤマトカワゲラ属との識別は下の画像を参照 / 既知の未記載がおり、幼虫での区別は困難であるため種名は?とした。) 季節性・化性:初夏~秋に羽化し、1年1化と推測されるが詳細不明

齢不詳/雌雄不明

2021.03.18 宮城県​

終齢の2つ前(?)/雌雄不明

2021.03.27 山形県​

齢不詳/雌雄不明

2024.03.24 宮城県​

――――【 キコナガカワゲラ属 or ヒメガカワゲラ属の一種たち(それぞれ種は不明)】――――

生息環境:山地渓流・平地渓流 記録済みの地域:(種レベルで同定できていないため割愛) 幼虫の特徴:全身黄色~オレンジ色で無斑、細長い体(種レベルの同定は困難)。 季節性・化性:初夏~秋にかけて多く記録されるが詳細不明/1年1化


観察メモ​(モンカワゲラ亜科 Perlinae)
 ・頭部背面後方を横断する隆起線がないことでカワゲラ亜科と区別されます。
 ・ナガカワゲラ類(キコナガカワゲラ属・ヒメナガカワゲラ属・ナガカワゲラ属)以外は中~大型種、ナガカワゲラ類は小~中型種です。モンカワゲラの終齢幼虫は大き
  なもので35 mmを超え、国内最大級のカワゲラのひとつです。
 ・ナガカワゲラ類・エダオカワゲラ属・ヤマトカワゲラ属を別の種群(亜科)とするほうが妥当だという議論もありますが、2024年現在はすべてモンカワゲラ亜科に含む
  分類体系が主流であるため、本HPもこれを踏襲しました。
 ・撹乱や汚濁の少ない清冽な河川を好む種が多く、特にキカワゲラ属は良好な水質、モンカワゲラ属は低い水温に強く依存して生息しています。
 ・エダオカワゲラ属とナガカワゲラ類は河床間隙を利用していると考えられ、特にナガカワゲラ類は地下十数mで地下水性ゲンゴロウなどと混獲された記録もあるようで
​  す。
 ・多くの属に未記載種が確認されており、種レベルでの同定が困難なものが多いです。属レベルの検索と国内の未記載種の記録状況は下の表を参照。

 

​表:国産モンカワゲラ亜科の各属の特徴等

 

​画像:ヤマトカワゲラ属とエダオカワゲラ属の識別

​ ヤマトカワゲラ属         エダオカワゲラ属

小顎鬚は徐々に細まる(水色)

​後頭角は角ばる(黄色)

小顎鬚は末節が細い(水色)

​後頭角はなめらか(黄色)


成虫【準備中…】

 
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